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2009年3月29日 (日)

ロッキード事件⑱…残されている謎

小林吉弥監修『知識ゼロからの田中角栄入門』幻冬社(0903)は、アメリカ発の疑惑という謎と共に、ロッキード事件の謎として以下を挙げている。

先ず、贈賄側の証人として嘱託尋問で証言したロッキード社のコーチャン元副社長とクラッター元東京事務所代表が、無罪どころか起訴すらされていないこと。
コーチャンやクラッターの嘱託尋問調書による証言の問題性については既に触れたが、贈賄側の主犯格が何ら罪を問われないというのも不自然といえよう。

そして、児玉ルートに手が付けられなかったこと。
上記のロッキード社の対日工作資金30億円のうち、大半は対潜哨戒機P3C絡みの児玉に渡り、丸紅経由で田中角栄に流れたとされている金額は5億円に過ぎない。
アメリカ側の資料に、児玉ルートに関する政府高官名がなかったこともあって、事件については5億円の詮議に集中して、児玉ルートに関しては追及されが不十分だった。
しかし、金額が大きく、しかも自衛隊の対潜哨戒機という公的な案件ということからしても、児玉ルートの方が大きな問題であったことは間違いないだろう。

さらに、木村喜助『田中角栄消された真実』弘文堂(0202)では、「5億円」の現金を誰が確認したか、という謎が指摘されている。
判決では、「5億円」は、伊藤宏丸紅専務から榎本敏夫秘書官に、段ボール箱に入れて渡されたと認定されている。
しかし、証拠上、「5億円」を見た者は、クラッターしかいない。
クラッターが、ロッキード社東京支社で、現金5億円を段ボール箱に詰めたと証言しているだけであるが、その証言は嘱託尋問の中でなされたもので、証拠排除されていて有罪の証拠にできない。
「5億円」を、丸紅側で確認した者がいないのである。

そんなことがあり得るだろうか?
丸紅という商社の人間が、領収書を出して段ボール箱を受け取ったとしたら、中味を確認するのは当然だろう。
まして、総理に献金するものだとしたら、慎重に確認してしかるべきだろう。
最終受取人の田中角栄が、「5億円」の受け取りを否認した状態だったのだから、「5億円」について、明確な裏付け証拠が必要だったにも拘わらず、判決は当然のように、伊藤→榎本の資金の流れを認定している。

西松建設献金問題の渦中で、ロッキード事件の経緯を振り返ってみると、奇妙な既視感のようなものを覚える。
第一は、逮捕容疑の類似性である。
7月27日、東京地検特捜部は、外為法違反容疑で、田中角栄前首相と秘書官の榎本敏夫を逮捕した。
この逮捕に関して、外為法違反は別件逮捕であり、外為法という形式的な行政犯で逮捕というのは大きな問題だ、と指摘した法律専門家がいた。
西松建設献金問題でも、政治資金規正法の虚偽記載という形式犯での逮捕から、捜査が始まっている。

第二は、丸紅や全日空などのトップが6月から始まると、稲葉修法務大臣が、「横綱級は2ヵ月以内に」などと発言して、角栄の逮捕が近いことを匂わせた。
この稲葉修法務大臣の観測情報は、漆間官房副長官の観測情報とそっくりではないだろうか。

そしてその結果として、第三に、マスコミ情報と検察情報がポジティブ・フィードバックしているように見えることである。
検察情報がマスコミによって世間に流され、それによって世論が形成される。
その世論に検察の捜査が後押しされ、裁判所の判断にまで影響を及ぼす。
おそらくは、西松建設献金問題でも、小沢民主党代表や大久保秘書について、クロの心証を形成している国民が多数だと思われる。
「推定無罪」などという言葉は、既に死語のようである。

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