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2009年3月12日 (木)

情報源の秘匿と知る権利

西松建設の献金問題に関する漆間官房副長官の発言をめぐって、静岡新聞に検証記事が掲載されている(3月11日)。
同記事によれば、5日に行われた漆間氏と記者団との懇談には、朝日新聞、共同通信、NHKなど、新聞・通信・放送各社の記者十数人が出席した。
席上、漆間氏は捜査見通しに言及した。

元警察庁長官の漆間氏の異例の発言を、各社は重く見て、「政府高官」や「政府筋」として報道した。
静岡新聞に記事を配信している共同通信は、発言内容を、「自民党議員に波及する可能性はないと思う」と表現した。
しかし、メモも録音もしないオフレコ懇談だったため、各社の表現はまちまちだった。

この発言に対し、与野党から批判が続出した。
その中で、朝日新聞が「民主、漆間氏とみて追及」の見出しで掲載し、共同通信や読売新聞も追随した。
内閣記者会の幹事社は、7日に実名公表を求めたが、漆間氏は、「各社で決めた約束に従ってほしい」とこれを拒否した。
8日になって、河村建夫官房長官が、テレビ番組で漆間氏の名前を公表した。

オフレコ懇談は、政策決定の舞台裏や当局者の本音を聞き出すのが狙いで、記事にする場合は、「外務省筋」とか「自民党幹部」などと個人名を伏せるのが慣行になっている。
責任の所在が明確でないため、恣意的な情報操作に利用されやすい側面がある。

オフレコ取材について、朝日新聞と産経新聞とでは、指針が異なっている。
朝日新聞の「記者行動基準」では、オフレコ取材について、「発言内容を報道する社会的意義が大きいと判断した時は、取材相手と交渉し、オフレコを解除するよう努める」としている。
一方、産経新聞の「記者指針」は、「情報源秘匿の約束をした場合は必ず守る。明確にオフレコの約束をした場合も同様」と取材先の保護を重視している。

産経新聞が、斉藤勉常務取締役の署名で、朝日新聞が「民主党の見方」という格好で漆間氏の実名を明かしてしまったことを批判したことは、昨日書いた通りである。
もちろん、当初匿名だったものが実名に切り替えられた事例は過去にもある。
1995年10月、江藤隆美総務庁長官が、メモを取らないよう求めた上で、「植民地時代、日本は韓国に善いこともした」と発言した。
韓国の東亜日報が、“暴言”として取り上げてから、各社が一斉に報道し、江藤氏は辞任に追い込まれた。
2002年5月には、福田康雄官房長官が、非核三原則見直しの可能性を、「政府首脳」としての立場で発言した。
福田氏は、3日後に自らの発言と認めた。

今回のような懇談は、「バックグラウンド・ブリーフ(背景説明)」と呼ばれ、通常はメモや録音も可能で、「政府高官」などの主語で報道される。
ニューヨーク・タイムズ東京支局のマーティン・ファクラー記者は、「メディアは極力、実名にする努力が必要だ」と指摘し、元東大新聞研究所教授で立正大学講師の桂敬一氏も、「ニュース価値があれば、実名報道は当然。マスコミがオフレコに拘束されると、権力側は情報操作をやりたい放題できる」としている。

静岡新聞の記事の内容は、以上のようなものである。
見出しは、「知る権利か 情報源秘匿か」となっている。
上記の内容からすれば、メディアは、可能な限り実名報道すべきだ、ということになる。
0903122各社の発言内容は表のようであり(静岡新聞3月12日)、基本的には官房副長官を指すとされる「政府高官」や「政府筋」の表現で報道されている。

また、引用した発言内容も、微妙なニュアンスの違いはあるが、「自民党議員には波及しないだろう」という基本的な内容は変わっていない。
これらを踏まえて考えると、朝日新聞が民主党を隠れ蓑にして実名を明かしてしまったことも、産経新聞のように非難すべきことでもないように考えられる。
そうでなくても情報を独占している側からの、一方的な情報流出が続いている状況である。
メディアは、可能な限り、「知る権利」に応える努力をするべきではないだろうか。

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