千葉県知事選と民意
千葉県知事選で、元衆院議員の森田健作氏が当選した。
森田氏は、2005年に行われた前回の知事選で、現職の堂本氏に6086票という僅差で惜敗した。
今回の選挙は、小沢民主党代表秘書の起訴と小沢代表の続投という状況に対して、どういう民意が示されるかという点において注目を集めた。
結果は、民主党など野党4党が推薦する吉田平氏(49)が破れたので、民主に逆風が吹いたということになる。
しかし、森田氏は、前回も惜敗であり、その後知事選に向けて活動してきたのであって、不利な状況からの逆転勝利というわけではない。
そういう意味からいえば、無党派に徹したことの勝利であって、政党離れという現象が確認されたとも考えられる。
国政選挙の場合は、2大政党の選択という性格が強くなるので、地方の首長選の結果がダイレクトに国政選挙の動向を示すものとはいえない。
しかし、民主党内にも、小沢氏の自発的辞任を求める声が大きくなってくることは必至だろう。
私は、小沢代表の秘書が逮捕されたという第一報を聞いた時点で、小沢氏は出処進退を明らかにすべきだとした(09年3月5日の項)。
その後、何回か、検察の捜査に関する疑問を書いてきた。
特に、ロッキード事件の経緯を再読する中で、私などがまったく疑いもしなかった田中角栄の有罪判決が、かなり疑わしい論拠に基づいていることを知り、西松建設献金問題に関しても、検察情報(マスコミ情報)だけで判断しないようにしなければいけない、と思うようになった。
しかし、小沢氏が続投すべきか否かは、検察の捜査に対する疑問とはまた別の問題である。
私は、今回の西松建設献金問題に関していえば、政治資金規正法違反だけで、今回のような捜査手法が取られるとしたら、明らかに政治的効果を意図した捜査と判断せざるを得ない。
西松建設献金問題がなくても、千葉県知事選で森田氏が勝利した可能性は高いと思うが、民主党などが推薦した吉田平氏にとっては、逆風であったことは間違いない。
つまり、民意は、検察の意図した方向に動いたのだろう。
ところで、今日の産経新聞の「正論」欄に、京都大学の佐伯啓思教授が、『「民意を問え」という政治暴論』という文章を寄稿している。
佐伯氏は次のように書いている。
民主政の中の政治家は、国民の代表であるが、この場合の代表というのは、公的事項について大きな判断をなしうる優れた人物という意味ではなく、「民意に従って動く人物」というような意味である。
しかし、「民意」なるものは明確でない。せいぜい世論調査の結果くらいしかそれを示すものはない。
また、大きな政治的論点に関して、国民が確かな民意を形成することは難しい。
旧来の政治が民意を反映していないとすれば、改革派は民意につくべく活動するということになる。
しかし、佐伯氏は次のような問題があるという。
第一に、政党の基本政策が「民意の反映」では意味をなさない。
政権交代が可能な二大政党などという構想は、両者が「民意の反映」を意図したら、成立しないだろう。
第二に、もし、「民意」を本当に反映したら、政治は「民意」と共に不安定化するだろう。
大衆社会では、「民意」は情緒とスキャンダルと映像的な効果によって動く。
つまり劇場型政治である。
政党がいずれも「民意」につこうとしたら、政策に差異がなくなってしまう。
そして、より「民意」を引きつけるためには、政策よりも、イメージと人気の方が有効である。
佐伯氏は、今日の政治課題は、民意が反映されていないことではなく、政治家が政治から逃げている点にあるとする。
そして、政治とは、政治理念を打ち出して、「民意」を動かす指導行為であると結んでいる。
佐伯氏の指摘は大いに首肯できることではあるが、現実政治とはいささか乖離している。
そして、千葉県知事選の結果などが、「民意」として大きな影響力を持つのではないかと予想される。
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