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2009年3月 2日 (月)

ロッキード事件⑤…児玉誉士夫の証人喚問

昭和51(1976)年2月5日の未明、アメリカの通信社UPIからロッキード事件の発端となる第1報が届き、5日の夕刊には、児玉誉士夫に渡したカネの一部が「日本政府当局者に対して使われた」とロッキード社の公認会計士が明言したことが報じられた。
その当時の国会は、衆議院は自民党が圧倒していたが、参議院は与野党伯仲していた。
しかも自民党の中は、金権批判を受けて田中角栄が退陣を余儀なくされ、副総裁・椎名悦三郎の裁定で、三木武夫が政権を継いでいた。
田中派を中心とする主流派は、金権批判のほとぼりが冷めるであろう秋口の解散によって、政権への返り咲きを狙い、三木首相は、政権延命を第一に考え、予算成立後に解散に打って出ると揺さぶりをかけていた。
何やら、33年後の現在と余り変わらないかのような状況だったといえるだろう。

ロッキード事件のような疑獄事件は、政権与党に不利に働くはずである。
しかし、この時の自民党幹事長は中曽根康弘で、児玉誉士夫の秘書をしていた太刀川恒夫は、かつては中曽根の書生をしていたことがあった。
つまり、児玉に最も親しい政治家が中曽根であることは周知の事実だった。
ロッキード社から賄賂を受け取った「日本政府高官」として、中曽根に疑いの目が向けられたのは当然のことであった。
政権の要の幹事長が事件にかかわっているとすれば、内閣崩壊も起こり得る。
政権延命に固執する三木首相が、どこまで事件を追求するか。
あるいは、ロッキード社は、イタリア、トルコ、フランスなどにも同様の賄賂を贈っており、外交問題に発展する可能性があって、アメリカの出方も不透明だった。

2月6日の衆院予算員会では、すべての審議がロッキード事件がらみとなった。
三木首相は、野党の追及に対して、「日本の政治の名誉にかけても、この問題を明らかにする必要がある」と、野党の、あるいは世論の望む通りの回答をした。
つまり、中曽根幹事長によって政権に傷がついても、田中角栄を潰そうというスタンスに立ったのだった。
この首相発言を受けて、野党は証人喚問を要求した。
この時点で、田中角栄はロッキード社との係わりを前面否定、中曽根幹事等は「ノーコメント」で通していた。
予算委員会の審議終了後、ロッキード社のアーチボルト・コーチャン副会長が、「小佐野賢治、檜山広丸紅会長、大久保利春丸紅専務らが関わっていた」と発言したことが伝えられた。
小佐野賢治は、田中金権批判の祭に、「刎頚の友」として登場した人物だった。

2月8日は、日曜日だった。
公務員住宅で過ごしていた平野氏のもとに、朝日新聞の記者から、中曽根幹事長と宇野宗佑国対委員長が、三木首相の要請を受けて、証人喚問に応ずることにした、という電話が入った。
中曽根幹事長は、証人喚問に積極的だという。
週末に何があったのか?

喚問されるのは、児玉誉士夫、小佐野賢治、檜山広、松尾泰一郎(丸紅社長)、伊藤宏(丸紅専務)、大久保利春、若狭得治(全日空社長)、渡辺尚治(全日空副社長)の8人である。
この中で、政治家と直結していると見られていたのは、児玉誉士夫と小佐野賢治ということになる。
児玉が金銭の授受を否定しても、証人喚問となれば、偽証罪が適用されるので、「中曽根との関係」を否定することはできない。
ロッキード事件の主役との深い関係が証明されることによって、自民党は大きなダメージを受けるだろう。
また、小佐野賢治は、田中角栄の刎頚の友だから、小佐野と丸紅経由で、田中にカネが渡っているのではないか、と容易に推定される。

アメリカ上院の多国籍企業小委員会(チャーチ委員長)で、児玉誉士夫は、昭和32(1957)年ごろから、ロッキード社の「秘密代理人」として契約していることが明らかにされていた。
第三次防衛力整備計画も、「グラマンかロッキードか」が問題になっておりロッキード社のF104導入に絡んで児玉が関与していたのではないか、と疑われていた。
また、昭和47(1962)年に、国産機開発から一転してロッキード社のP3Cの導入に変わった次期対潜哨戒機計画でも、児玉の暗躍が想像された。
児玉に渡ったカネは21億円である。
現在の貨幣価値に換算すれば、10倍程度と見積もられる。
極右として知られていた児玉誉士夫が、アメリカの企業のエージェントとなって、日本の防衛計画に絡んで政治家を動かしていたことが明らかになれば、一大事件である。
中曽根幹事長は、どうして証人喚問を承諾したのか?

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