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2009年3月26日 (木)

西松建設献金問題における悪質性の評価と捜査手続き・手法

郷原信郎氏は、日経ビジネスオンライン3月24日号掲載の『小沢代表秘書刑事処分、注目すべき検察の説明』という記事において、検察の説明責任を論じている。
検察が説明しなければならないポイントとして、「違法性の成否」の次に、「悪質性の評価」の問題がある。

郷原氏は、政治資金規正法の目的・理念からすると、罰則の対象とされる違反は、政治資金収支報告書の訂正や改善指導などでは目的が達っせられない悪質な違反に限られる、とする。
本件の場合はどうか?
問題になっているのは、収支報告書に寄附の事実を記載している「表の寄附」である。
収入の総額や支出の内容も開示されている。
収入が秘匿され、支出にも制限が働かない「裏の寄附」ではない。

「表の寄附」において、名義を偽ったとする違反が、「裏の寄附」と同視できるほど悪質か?
そうだとするためには、次のことが立証されなければならない。
第一は、「表の寄附」であっても、寄附の名義を偽っていることによって、「裏の寄附」と同様といえること。
第二は、寄附の見返りとしての便宜の供与が期待できたこと。言い換えれば、贈収賄的な要素があったこと。

「表の寄附」が「裏の寄附」と同視できるほど悪質であるとするためには、「ダミー団体」名義であることが、西松建設からの寄附を隠すことになっていたことが要件になるだろう。
この点に関して、郷原氏は、この団体から寄附を受けたり、パーティ券を購入していたりしていた数多くの政治家(自民党を含む)は、みな西松建設のダミーであることを知っていたはずだ、とする。
まあ、常識的に考えて、そうだろうと思う。
とすれば、西松建設の名義を隠す効果はなかったと考えられる。
そして、西松建設の名義を隠す効果がなかったとすれば、「裏の寄附」と同様の悪質性とは言えないだろう、ということになる。

寄附の見返りとして、便宜の供与が期待できたのか?
メディアでは、盛んに東北地方の公共工事の談合による受注に関し、小沢氏秘書の影響力が報じられている。
果たして、検察は、それを便宜供与的事実と捉えているのか否か?
贈収賄的な性格があったのか否かは、献金と受注者の決定の因果関係を法廷で問われることになるだろう。
これも一般論としていえば、大久保容疑者の影響力がどうして発揮されたか、個別の事業と献金との関係を裏付けることは難しそうである。

ところで、本件に関する捜査手続き・手法はどう評価されるべきだろうか?
被疑者の逮捕・拘留が行われるのは、逃亡の恐れや罪証隠滅の恐れなど、身柄拘束の「必要性」があり、かつ「相当性」がある場合である。
本件の場合はどうか?

大久保容疑者に逃亡の恐れは考えにくいであろう。
また、本件の最大の争点は、政治団体の実体がなかったどうかであり、罪証隠滅の恐れも考えられない。
つまり、逮捕の「必要性」はなかった、と郷原氏はいう。
「相当性」は、事案の重大性が判断要素になるが、そのことにも疑念があることは上記の通りである。

捜査手続き・手法に関して、郷原氏は、検察の説明責任を以下のように問う。

本件で、総選挙を間近に控えた時期に、野党第一党の代表の秘書をいきなり逮捕するという捜査手法が相当であり、任意で取り調べて弁解を十分に聴取したうえで、必要に応じて政治資金収支報告書の訂正を行わせるという方法では政治資金の透明化という法の目的が達せられない事案であったことを説明することが必要になる。

検察が捜査処理について説明責任を負うことは、一般論としては公判での主張立証に委ねればいい。
郷原氏は、検察に説明責任があるのは、以下のような疑念が生じているからであるとする。

政治資金規正法という運用の方法いかんでは重大な政治的影響を及ぼす法令の罰則の適用に関して、不公正な捜査、偏頗な捜査が行われた疑念が生じており、同法についての検察の基本的な運用方針が、同法の基本理念に反するものではないかという疑いが生じているからだ。

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