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2009年2月 1日 (日)

疑念深まる「かんぽの宿」譲渡問題

鳩山総務相のように「衝撃的だ」というべきだろうか、それとも「案の定」というべきだろうか?
「かんぽの宿」の譲渡問題をめぐって、新たな事実が知らされつつある。

その第一は、取得(建設)価額である。
日本郵政は28日、オリックスグループに一括譲渡する契約を結んだ「かんぽの宿」70施設の土地取得代と建設費が、総額で約2400億円だったことを明らかにした。
譲渡額109億円とすれば、約22倍になる。
譲渡金額は、入札を経て決まったのだから、公正妥当なものと言えるのだろうか?

その第二は、旧郵政公社が、2007年3月に、競争入札で7社に115億円で一括売却した178か所の土地・建物のうち、評価額1万円とされた鳥取県岩美町の「かんぽの宿・鳥取岩井」が、半年後に社会福祉法人に6000万円で転売されていたことである。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090130-OYT1T00952.htm
現在は老人ホームとして使われているが、社会福祉法人の当時の担当者は「6000万円は相場を考えてこちら側が提示した。1万円の評価だったとは知らなかった」と話している。
日本郵政会社によると、同宿は1978年に4階建て、延べ4219㎡で建設され、土地は1万3000㎡。
日本郵政によれば、05年度に2700万円、06年度にも4200万円の赤字を計上した、という。

時価評価額を算出する方法に、ディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)法という考え方がある。
WIKIPEDIA(08年11月28日最終更新)では、次のように説明されている。

ある収益資産を持ち続けたとき、それが生み出すキャッシュ・フローの割引現在価値をもって、その理論価格とする。たとえば、株式ならば企業の将来キャッシュ・フローを一定の割引率を適用して割り引いた割引現在価値をもって理論株価とする。
……
将来キャッシュ・フロー計画が高い確度で計算可能で、客観的に妥当な割引率を算出、適用できた場合には、他の方法では得られない個別資産の特殊性を踏まえた評価が可能となる方法とされる。

「かんぽの宿・鳥取岩井」のキャッシュ・フローはどうだったのだろうか?
キャッシュ・フローと損益は、減価償却などの要素があるので、一致しない。
日本郵政は、個別施設の財務諸表を公開しているだろうか?
おそらくは、公開していないだろう。
私が検索した限りでは、日本郵政全体の中のセグメント情報として、例えば保険事業の損益計算書や貸借対照表の情報はあるが、個別施設の情報は分からなかった。

仮に、「かんぽの宿・鳥取岩井」の将来キャッシュ・フローがマイナスだとしたら、この施設はタダで譲渡してもいい、という理屈なのだろうか?
冗談ではなく、1万円ならば、私だって買うことができる。
まあ、「買ってどうするの?」と問われれば、別にアイデアがあるわけではないが、半年で6000万円で転売できるとすれば、それを「濡れ手で粟」、「錬金術」と言わずして、何と言えばいいのだろうか?

社説等を見ると、入札手続に瑕疵がないとするならば、鳩山総務相の「待った」はおかしい、とする見解が多いようである。
西川善文日本郵政社長も、公正な手続きを経て決定したものだ、と主張している。
しかし、総務相の理解が得られないならば、「オリックスへの譲渡は横に置いて(すなわち一時的に留保して)」入札手続等の検証を、第三者委員会を設けて行うとしている。

しかし、私は、瑕疵のない手続きで行われた、とするところに問題があるのではないか、と考えるものである。
その結果が、2400億円の原価のものを109億円で譲渡する、ということになったのである。
手続きというよりも、もっと深い構造が隠されているのではないか?
「かんぽの宿・鳥取岩井」を再転売で取得した社会福祉法人は、相場を考えて6000万円を提示した、という。
半年で6000倍である。単利で計算しても、1年で12000倍である。
120万%?
ジンバブエでもあるまいし、そんなことが許されるはずはないだろう。

今回のオリックスへの譲渡も、雇用の継続と転売の禁止が条件だったことが強調されている。
しかし、雇用については1年間、転売禁止期間については2年間だということである。
あってなきが如きシバリではないだろうか?
私は、入札過程の検証も当然行われるべきであるが、何よりも、個別施設までブレークダウンした精細な財務諸表的情報の開示を行うべきだと考える。

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