太陽光発電買い取り義務化について
二階経済産業大臣は、24日の閣議のあとの記者会見で、太陽光発電の普及を加速するため、太陽光で発電された電気の買い取りを電力会社に義務づける制度を新たに導入することを明らかにした(写真は産経新聞09年2月25日)。平成22年度までに導入する予定だという。
太陽光発電の普及促進とともに、関連産業の活性化、雇用拡大を図るのが狙いだ。
私も、食料やエネルギーなどの基幹的な生活必需財の自給率を高めることには、全く異論がない。
特に太陽光発電は、低炭素社会化という面からみても、大いに推進されるべきテーマだろう。
太陽光発電の普及策としては、設置時に補助金を出す制度が行われてきた。
しかし、価格が下がってきたことを理由に、この補助金政策が打ち切られた。
その結果、太陽光発電の普及にブレーキがかかってしまっているのが現状である。
太陽電池の生産量の推移を見てみよう(Wikipedia09年2月20日最終更新)。
図で見るように、日本以外では2005年以降急増する傾向にあるが、日本だけが2006年以降横這い状態である。
経済産業省の意図は、これを再び成長軌道に乗せようというところにある。
しかし、設置時に補助金を出す政策を復活させるのは、廃止したこととの整合性が取れない。
それで、買い取りの義務化という手段をとることになった。
現在家庭等で発電した際の余剰電力は、電力会社がサービスとして買い取っている。
これを義務づけようというものであるが、同時に買い取り価格を現在の2倍程度に引き上げようということである。
現在の買い取り価格は、24円/kw・hで、これはほぼ電力料金の単価と同程度とみられる(電気使用料は、使用量が増えるに従って単価が高くなる逓増制になっている)。
これを約50円程度にするということで、ドイツ等では、買い取り制によって、太陽光発電の普及が加速したという。
買い取り価格がいくらが妥当かについては様々な見解があり得るだろう。
太陽光発電を普及させ、化石燃料の使用を減らす(あるいは増大を防ぐ)ことは、エネルギー源の自給や環境対策の面から好ましいことは当然である。
しかし、現在のシステムは、補助金を付けたり、高額で買い取りを義務づけなければ、設置者にとって経済的なメリットがない。
だから、普及が停滞しているわけであり、これを普及させるためには、政策的支援が必要である。
現在の2倍程度での買い取りを義務化することになれば、導入のインセンティブにはなるだろう。
しかし、問題は、電力会社側が、コスト負担増を電力料金の値上げで確実に回収できる仕組みを条件にしていることだ。
つまり、太陽光発電システムを設置した家庭に対する支援を、太陽光発電を設置していない家庭が支援するという仕組みである。
しかし、現時点で太陽光発電を導入している、あるいは導入しようとしている家庭を想定してみると、おそらく標準的な家庭よりも所得水準は高いと考えるべきであろう。
新しい制度は、所得の高い家庭への支援を、所得の低い家庭が負担するということになる。
試算によれば、標準家庭で月額数十円から100円程度に抑えられるらしい。
まあ、金額的には受認すべき程度かも知れない。
しかし、ただでさえ格差社会の進行がいわれている時である。
格差を拡大する方向に働く施策が妥当なものといえるのだろうか?
経済産業省の施策だから当然のことではあるが、新制度導入の意図は、産業振興である。
産業振興の方向性として、このような施策は正しいのであろうか?
いささかの疑問なしとは言えない。
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