「かんぽの宿」一括売却に関する竹中平蔵氏の宮内氏擁護論
「かんぽの宿」をオリックス・グループに一括売却する件について、鳩山総務相が異議を唱えていることが議論を呼んでいる。
このブログでも、私たちのような市井の人間には想定外の「しかけ」ではないのか。言い換えれば、宮内義彦氏の率いるオリックス・グループが譲渡先であっては、出来レース的ではないか、と書いた(09年1月9日の項)。
本件については、「泉の波立ち」で精力的に執筆している南堂久志さんも、「政府の財産である「簡保」の資産を、破格の安値で一括売却を受けるというのは、莫大な額になる国民資産を、捨て値でちょうだいしよう、という魂胆だ。」と批判している。
http://www005.upp.so-net.ne.jp/greentree/koizumi/main.htm
鳩山総務相の「待った」については、賛否両論あるようだ。
宮内氏の盟友の竹中平蔵氏が、宮内擁護論を展開している。
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090119/plc0901190243000-n1.htm
竹中氏は、論点を次のように集約している。
第1に、資産価格が落ち込んでいる今の時期に、急いで売却するのは適切ではない。第2に、オリックスの宮内義彦会長は規制改革会議の議長を務めており、郵政民営化による資産処分にかかわるのは「できレース」的である。
……
そもそも民営化とは、民間の判断に任せることであり、経営判断の問題に政治が口出しすること、しかも機会費用の概念を理解しない政治家が介入することは、根本的に誤っている。
この部分だけを取り出してみれば、竹中氏の意見は正論のように聞こえる。
「機会費用」などと経済学者に言われると、何となく「そうですか……」と引き下がらざるを得ない雰囲気になってくる。
機会費用とは何か?
私などは、費用の一種のことかと思ってしまうが、むしろ利益の概念だというからややこしい。
WIKIPEDIA(09年1月16日最終更新)では次のように説明されている。
機会費用(きかいひよう opportunity cost)とは、選択されなかった選択肢のうちで最善の価値のことである。
法学では、逸失利益とも呼ばれる。
……
例えば、大学進学の機会費用とは、進学せずに就学期間中働いていたら得られたと考えられる利益である。
竹中氏は、次のように説明する。
今のような不況期に資産を売却する価格は、確かに好況期に比べて低くなる。しかし民営化された郵政は、売却した資金を新たな事業資産に投資することになる。その際、そうした投資資産の購入価格も不況期には安くなっている。従ってこれは相対価格の問題であり重要な経営判断なのである。いつが適切かは、市場や経営を知らない政治家や官僚に判断できる問題ではない。
「民営化=市場主義」こそが正しい選択肢なのだ、ということであろう。
しかし、それは、公正な市場が形成されていて、参加者が同等の条件で競争している、ということが前提条件になるのではないか。
宮内氏が、一種のインサイダーであって、情報の量と質において、有利な立場にあったことは明らかで、そもそも上記の前提条件が該当しない。
竹中氏は、次のように宮内氏を擁護している。
第2の点についても、根本的な錯誤がある。まず、郵政民営化のプロセスに規制改革会議が関係したことはない。
そして、鳩山総務相の見解を、「民間人排除の論理」と一般化して批判する。
特定の問題を一般論で論議するのは、欺瞞的だろう。
問われているのは、民間人が政策決定に係わることの是非ではなく、総合規制改革会議議長だった宮内氏の率いるオリックスグループが、簿価よりも低い価格で一括譲受することの是非である。
総合規制改革会議から、郵政民営化の答申はでていないが、郵政民営化問題が経済財政諮問会議に一本化されるまでは議論が行われていたのであり、無関係とは言えない、と鳩山総務相が反論している。
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090120/plc0901201742007-n2.htm
せっかくの擁護論ではあるが、これでは竹中氏が仲間に甘いことを表明しているだけで、かえって逆効果だと思うが、それが竹中氏には分からなくなっているらしい。
また、竹中氏は、ホテルの営業に関して、次のように言っている。
完全民営化されたかんぽ生命保険には、他の民間企業と同様、保険業法が適用される。当たり前の話だが、民間の保険会社がホテル業を営むことはあり得ないことだ。ホテル業のリスクが、金融の本業に影響を及ぼすことがあってはならない(いわゆるリスク遮断)からである。
これに対し、鳩山氏は以下のように事実誤認を指摘している。
竹中氏の論文には間違いがある。竹中氏は「民間の保険会社がホテル業を営むことはあり得ない」として「かんぽの宿」が「かんぽ生命」の施設のように書いているが、「かんぽの宿」は(親会社の)日本郵政が所有する施設だ。
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090120/plc0901201742007-n1.htm
ここは鳩山氏に歩があるだろう。
オリックスは外資ではないが、今回の事態を見ていると、破綻した長銀がハゲタカファンドに買収された案件を連想するのは考えすぎだろうか。
もっとも、関岡英之氏などによれば、郵政民営化自体が、アメリカの「年次改革要望書」に沿ったものだということだから、似ていて当然かも知れない。
この辺りの「しかけ」については、もっと知らなければならないと思う。
竹中平蔵氏は、依然としてグローバル市場主義(米国型金融資本主義)の信奉者のようであるが、かつての僚友の中谷巌氏が「週刊朝日09年1月23日号」で、『「改革」が日本を不幸にした』と実に率直に「懺悔」している。
中谷氏は、1969~74年にハーバード大学に留学し、市場主義的な世界観に没頭した、と紹介されている。
それが、歴史、文化、哲学などの専門家と交流する中で、「経済学で記述できることは社会全体の2~3割に過ぎないとわかってきたのです」と語っている。
まあ、実に素直と言えば素直なのだけれど、「今頃何言ってるの?」という気がする。
中谷氏のいう「社会」というのが、人間の営みのことを指すとしたら、中谷氏に、加藤周一氏の次の言葉を贈りたい(08年12月7日の項)。
文学藝術についていえば、昔芥川龍之介は、『人生は一行のボードレールにも若かず』といったことがある。私はその説に全く反対である。しかし一行のボードレールも知らずに過ごす人生は、さぞ空しかろう、と私は考えていたし、今でもそう考える。
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