田母神前幕僚長のアパ懸賞論文への応募
田母神氏は、どのような意図で、アパグループ主催の懸賞論文に応募したのだろうか?
書店で、田母神氏の『自らの身は顧みず』ワック出版(0812)を手にとってみたが、どうも購入する気にならかった。
棚の隣にあった、松岡正剛『連塾 方法日本 1 神仏たちの秘密 日本の面影の源流を解く 』春秋社(0812)が目に入り、こちらの方を買ってしまった。
いささか手強そうではあるが、日本を考えるのには、田母神氏の著書よりも参考になりそうだと感じたからである。
「自らの身は顧みず」というのは、軍人ならば、当然のことではないかと思う。
田母神氏を軍人と呼んでしまっていいのだろうか?
私は、自衛隊は、軍隊だと考える。
憲法9条との関係をどう考えるかは難しい問題であるが、実態として軍隊であることは否定できない。
田母神氏は、いわば空軍の代表者だったのだから、自らの主張を公にするに際して、ことあらためて「自らの身は顧みず」などと言って欲しくないのだ。
このタイトルをみて、かつて小泉純一郎元首相の詠んだ「短歌」を連想した。
首相に就任して最初の夏休みを箱根で過ごして、公務に復帰した際に披露したものである。
柔肌の熱き血潮を断ち切りて仕事ひとすじわれは非情か
与謝野晶子の有名歌の本歌取りのつもりなのだろうが、私は目にした瞬間に、この首相に興醒めしてしまった。
何というナルシズム。
こういう歌を得々として披露する人は、総理の資格がないと思った。
もし、本当に、柔肌を断ち切って仕事ひとすじに励んでいたとしても、それは自分だけが知っていればいいことではないのか。
もちろん、人間誰しも自分のことは可愛いものだ。
特に、大して読者もいないブログなどを書いている人間(自分のことです)は、程度の差はあれ、何がしかナルシストだろう。
しかし、臆面もなくこういう表現をできる人には違和感を感じる。
それと同じ印象なのである。「自らの身は顧みず」というタイトルは。
ところで、そもそもアパグループとは、どのような企業グループなのだろうか。
TVのCMを見たような気はするが、業態についての記憶はなかった。
例によって、WIKIPEDIAをみると次のようである(08年11月28日最終更新)。
1971年4月1日に、石川県小松市において信金開発株式会社として会社設立、同年5月10日から事業を開始している。1997年11月25日から、信金開発株式会社からアパ株式会社に商号変更し、グループ名をアパグループに変更している。
……
多くの建築事業に係わるグループだが、メインとなるのは、マンション事業とホテル事業である。マンション事業は、グループ代表である元谷外志雄が代表を兼ねている。ホテル事業は元谷外志雄の妻、元谷芙美子が社長を務めるアパホテル株式会社。
アパホテルは元谷芙美子が、常に帽子を被った正装で積極的に広告などに出ている事で有名で、“帽子の名物社長”等と言われる事もある。
アパは「JAPAN」から採られた語句とされ、アパマンショップをはじめとする各地の不動産仲介業者に見られる「アパ・マン」が名称に附く事業所店舗は全くアパグループと関係ない。
このグループが、懸賞論文を主催するようになった経緯は、やはりWIKIPEDIAによれば、以下のようである(09年1月7日最終更新)。
アパグループの代表である元谷外志雄が、著作「報道されない近現代史」(アパグループの月刊「アップルタウン」に「藤誠志」の筆名で連載したもの、産経新聞出版刊)の出版を記念して歴史論文顕彰制度を創設し、2008年5月から募集を始めた。
田母神氏は、自分の意見を開陳することがどうして批判されなければならないのか、と大いに不満らしい。
思想・信条の自由は、もちろん田母神氏も有していることは当然である。
しかし、それをどう表明するかは、自ずから職業や立場によって制約を受けると考えなければならない。
もちろん、田母神氏の立場からすれば、高度に戦略的判断に基づいて行われるべきだろう。
彼の論文は、結果として、自衛隊の信用を低減させたと考える。
自衛隊のトップの席にいる者として、軽率な行為だったことは否定できない。
論文の内容についても、その認識力や表現力は、問題だと感じさせられる部分が少なくない。
しかし、それを最優秀とした選考委員がいるのだから、そこは見解の違いということになるだろう。
もし、渡部昇一氏が、本気でこの論文を最優秀と認定したのならば、渡部氏に対する見方も変えなければならないだろう。
私は、渡部氏は、博覧強記の人として、畏敬してきた1人である。
自衛隊は、武力集団であるが故に、単なる公務員ではない。
公立学校の教師が、君が代を歌わないのとは事情が違う。
この人は、文民統制ということの意味が理解できていないのではなかろうか。
M資金話を持ちまわっている詐欺師との交際といい、自分の意見の開陳の波及を予測できなかったことといい、この人の情報解析能力(インテリジェンス)はお粗末だと思う。
幕僚の最高責任者としては、不適格だったと言わざるを得ないだろう。
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