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2009年1月15日 (木)

「M資金」の謎

田母神前航空幕僚長が係わったのではないか、といわれている「M資金」とは何か?
戦後史において、これほど著名であるにもかかわらず、これほど実体が良く分からない「事件」は少ないのではなかろうか。
それは、仮に実際に「M資金」が存在して、その恩沢に浴した人がいたとしても、その人から真相が漏れることはあり得ないだろうし、「M資金」の話に乗ってみて、結果的に空振りに終わった人は、「そんなものは架空の話だ」ということになるからだろう。
そもそも、「ある」ことを証明するのは、1つの事例を示せばそれで済むが、「ない」ことを証明するのは大変に難しい。

WIKIPEDIAを見てみよう(09年1月9日最終更新)

M資金(エムしきん)とは、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)が占領下の日本で接収した財産などを基に、現在も極秘に運用されていると噂される秘密資金である。
M資金の存在が公的に確認された事は一度も無いが、その話を用いた詐欺の手口が存在し、著名な企業や実業家がこの詐欺に遭い、自殺者まで出した事で一般人の間でも有名になった。
Mは、GHQ経済科学局の第2代局長であったウィリアム・フレデリック・マーカット(William Frederick Murcutt)少将の頭文字とするのが定説となっている。

ここで言われている「著名な企業や実業家がこの詐欺に遭い」というのも、詐欺事件が存在したことが実証されているというよりも、そういう噂がある、ということに過ぎない。
しかし、その噂によって、大企業の社長が失脚したり、自殺者が出たこと自体は事実である。
下山事件などの戦後史における不可解な事件を、「日本の黒い霧」として追究した松本清張に、M資金を扱った『深層海流』という作品がある(『松本清張全集 31 (31) 深層海流・現代官僚論』所収)。
末尾に付された「『深層海流』の意図」という文章の中で、松本清張は、次のように書いている。

私は「深層海流」を「日本の黒い霧」の続編のようなつもりで書いてきた。これを小説というかたちにしたのは、いちいち本名を出しては思い切ったことが書けないからだ。
……
旧安保成立以来の日本を小説に書こうとすれば、遺憾ながら「深層海流」に書いた程度がぎりぎりの線だと考える。それそれに実名を登場させて具体的にはっきりさせるためにはもっと時日を経なければならぬ。私が「深層海流」に書いたことは、正確と思われる資料と調査によっているのだが、部分的には勿論フィクションになっている。

清張のこの一文には、昭和37年2月という日付が書いてある。
それから半世紀余を経ているわけであるが、未だ「もっと時日を経なければならぬ」という時日は経ていないようである。
現在でも、亡霊の如くM資金は現れ、しかし「具体的にはっきり」とした姿は見られない。

「深層海流」では、「M資金」は、「V資金」という名前で語られている。
V資金の性格として、GHQが占領中に摘発した隠匿物資、貴金属など、占領中のGHQのLS(法務局)が取り上げた罰金の積立金などの他に、GHQが関与した貿易の利潤が大いに含まれている、というのが清張流の解釈である。
確かに、GHQが権限を握っていた時代、食糧にしても石油にしても、輸入物資に関して価格に関しては、全く市場性を捨象していたであろうことは想像に難くない。

現在、TVの討論番組などで活躍している高野孟氏の若い時代の著作に、『M資金』日本経済新聞社(8003)がある。
同書の「あとがき」で、高野氏は、次のように書いている。

取材チームは、……丸三カ月間、昼夜の別なく走りまわったけれども、得たものはわずかでしかなく、いまになってみると後悔の念ばかりが湧いてくる。

つまり、高野氏の敏腕をもってしても、「M資金」の実相は十分には明らかにし得なかった、ということである。
「M資金」の全貌や真相が不明なのは、事案の本質に由来するものであり、この手の話は、忘れられては現れ、現れては否定される、ということが繰り返されるということだろう。

余談ではあるが、高野孟『M資金』は、Amazon.co.jpの中古書マーケットでは、\12,000の価格がついている。
絶版になっていて、希少価値があるということだろうが、それは「M資金」に関する情報へのニーズが、未だに大きいということでもあり、「M資金」についてのまとまった情報がいかに少ないかを示していると言えるだろう。
私は、街中の古書店で、\1,000程度で買った記憶があるので、何だかトクした気分である。

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