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2009年1月30日 (金)

楳図ハウス一審判決

漫画家の楳図かずおさんが、吉祥寺に建設した自宅をめぐって、近隣住民2人が外壁の撤去を求めていた裁判に一審の判決が降りた。
090129ok22問題の建物は、写真(産経新聞09年1月29日)に見るように、赤と白の横縞模様に塗装されている。

訴訟の経緯は、日刊スポーツによれば、概略以下の通りである。
07年8月1日
建設中の楳図さんの自宅に対し、周辺住民2人が、赤と白のストライプの塗装などを、「異様な外観になる計画で、閑静な住宅街の景観を破壊する」として工事の差し止めの仮処分を申請していたことが判明
07年8月7日
タレントの中川翔子さんが、楳図さんを擁護する発言
07年10月12日
東京地裁が、「法令違反や公序良俗違反は見あたらず、住民らに差し止めの権利はない」として仮処分の申し立てを却下
07年10月24日
周辺住民が、騒音被害ならぬ「騒色被害」の危機として、工事差し止め請求を東京地裁に提訴
07年11月14日
第1回口頭弁論で、楳図さんが、「主観的、個人的価値観の押し付けで、景観利益を侵害しない」として争う姿勢を示す
08年3月13日
覆いのシートが外され、赤白の縞模様が公開
08年4月14日
楳図邸が完成したことにより、周辺住民が外壁の撤去に請求内容を変更
08年9月29日
楳図さんが、赤白のボーダーのネクタイ姿で出廷し、「新参者へのいじめと感じる」と主張。一方、住民側も、「おぞましい」と不快感を訴える
09年1月28日
東京地裁が、周辺住民の請求を棄却
http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp0-20090128-454896.html

判決の詳細は見ていないが、報道されているところでは、以下のような内容である。
1.外壁の色彩に関する条例などの法的規制や住民間の取り決めはない
2.保護されるべき景観利益があるとはいえない
3.仮に景観利益があるとしても、周囲との調和を乱すような建物ではない

まあ、とりあえずは、住民側の完敗といっていいだろう。
もともと、根拠になる法規範が存在していないのだから、判断は感性の問題ということになる。
言ってみれば、好きか嫌いかということである。
私自身は、このような家に住む趣味はないが、趣味は人それぞれである。
だから、よほどのことがない限り、他人の趣味に対して容喙はできないと考えている。
言い換えれば、他人の趣味に干渉して提訴するような住民が、近隣にいたら嫌だろうな、とも思う。

私の住んでいる集合住宅でも、騒音問題をめぐって確執があり、裁判沙汰になっているらしい。
集合住宅では、音がどういう伝わり方をするかよく分からない部分もあるが、上階と下階との間で、決定的な感情的な対立にまで至ってしまった。
バイオリンを練習している音の問題が原因で、もちろん練習過程だから、ミスも多いだろう。
それが耐えられない程度なのか否か、それは全く個人的な感覚の問題である。
われわれの場合も、気にならないとする人が多かったのは事実であるが、だからといって、耐えられない人に我慢せよ、というのもどうかな、という気がする。

保護されるべき景観利益があるかどうか、当該建物が周囲との調和を乱すかどうか、などは、結局主観の問題というしかないだろう。
その時代、その地域の常識(多数の合意が得られるところ)に従うしかない。
周りの住民がこぞって反対というならば、判断は別だったかも知れない。
しかし、所詮趣味や感性の問題を裁判で処理しようとすること自体がムリだった、ということだろう。
もちろん、京都や奈良などの歴史的な街並みの中でならば、話は変わってくる。
もっとも、その場合は、歴史的景観保存条例のようなものが制定されていて、根拠になる法規範も整っているだろうし、常識(多数意見)のレベルもシフトするであろうが。

しかし、何事も、法に抵触しなければ自由である、という考え方も問題だろう。
「法律の規定に触れさへしなければ何をやつても可いと云ふ思想ほど、社会に迷惑をかけるものはない」
統帥権の独立を盾に、権限を拡大しようとする軍部を牽制した、大正デモクラシーの指導者・吉野作造の言葉である。
何だか、最近の風潮に対する言葉のようにも感じられる。

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