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2009年1月26日 (月)

長銀粉飾決算事件再考

トヨタ自動車の社長交代と連結営業赤字という決算見通しとの関係について触れた(09年1月22日の項)。
トヨタ自動車だけではない。日産も、ソニーも、東芝も、TDKも……、今まで日本経済を牽引してきた大企業が、軒並み赤字決算発表である。
まるで「みんで渡ればこわくない」を地で行くような感じである。
それぞれの内情は分からないが、不況感が蔓延しているこの際に、出せるマイナス要因を出してしまおう、という部分もあるのではないかと思う。

トヨタ自動車の決算に触れた際に、旧長銀の粉飾決算事件について、最高裁で無罪の判断だったので、粉飾が否認されたかのように書いてしまったが、どうやらこれは誤認だったようだ。
細野祐二という公認会計士が、「諸君!/08年11月号」掲載の『長銀・粉飾決算「逆転無罪」には、見逃せないウラがある』という論文において、否認されたのは不法性であって、粉飾ではない、と書いている。
つまり、問題の決算は、粉飾決算でありながら不法決算ではない、ということである。
果たしてそんなことがあり得るだろうか?

細野会計士は、そもそも粉飾決算という司法上の定義はない、と言う。
粉飾決算というのは「経営者の意図を伴う重要性のある利益、あるいは収益力の不当な過大計上」という社会通念に過ぎない。
さて。問題の長銀の平成10年3月期の決算の事実関係はどうだったのか?
細野氏は、長銀の経営会議及び取締役会資料を紹介している。

現実には関連親密先の損失を完全に一掃するには一兆円規模の手当てが必要。当時これを一掃出来る体力がないのが現実であり、抱えていかざるを得ない。

ここで関連親密先というのは、第一ファイナンス、NED関係、日本リース関係等の5企業グループのことで、まあ長銀の身内のような貸出先である。
長銀は、これらの企業群を一般貸出先と区分し、その不良債権に対する引当・償却を行わなかった。
理由は、上記の引用文の通りである。
この処理を、先の「社会通念としての粉飾決算」に照らしてみよう。
「経営者の意図を伴う」のは、経営会議及び取締役会資料なので、問うまでもない。
「利益、あるいは収益力の不当な過大計上」であるのは、通常ならば引当・償却が必要であるのに、「関連親密先」という特殊な区分を設定して行っていないのであるから、明らかに該当している。
つまり、粉飾決算であったことは、明白なのである。

それでは、この粉飾が不法ではない、というのはどういうことか?
引当金について、企業会計原則注解において、次のように規定されている。

〔注18〕引当金について(貸借対照表原則四の(一)のDの一項、(二)のAの三項及びBの二項)
将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする。

長銀の「関連親密先」に対する債権は、まさにこのようなものであった。
つまり、長銀の処理は、企業会計原則に違反していた。
企業会計原則は法律ではないが、法的な規範性を持っている。
私も、監査法人との間で、解釈を戦わせた記憶があるが、企業会計原則そのものの解釈ということではなく、それを適用すべき個別事象の、例えば「将来の特定の費用又は損失の見積もり」をどう考えるか、ということであった。

細野論文では、驚くべきことに、平成10年当時の日本の銀行では、企業会計原則が全面適用にはなっていなかった、と書いている。
何ということであろうか。
貸出先企業には厳しい審査をする銀行に、企業会計原則が適用されていなかったとは。
細野氏によれば、平成10年6月8日以前の日本の銀行における決算は、旧大蔵省銀行局による「統一経理基準」に基づいていた。
そして、この「統一経理基準」では、金融機関が不良債権を償却・引当するに際しては、対象債権ごとに、大蔵省の検査部署から事前了解と取ることが求められていたという。
つまり、大蔵省の償却証明がない不良債権の償却・引当が行えなかったというのである。
それゆえに、「粉飾ではあったが、不法ではなかった」ということである。
不法性がないのであれば、無罪判決は容認すべきだろう。
しかし、粉飾に対する責任は、誰がどう負うことになるのだろうか?

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