トヨタの社長交代と赤字発表との関係
2年連続で2兆円を超える営業利益を出していたトヨタ自動車が、この3月期の決算見通しを営業赤字と発表したのは記憶に新しい。
もちろん、そこまで不況が急速に進展しているのか、と驚いた次第だった(08年12月23日の項)。
身の回りでも、景気のいい話などは皆無であるが、トヨタですら赤字なのでは仕方がないか、とも。
そして、1月20日、トヨタ自動車の社長交代が内定したことが正式にアナウンスされた。
赤字発表の際から、社長が交代するのではないかという観測が流れていたが、それが本当だったということである。
もちろん、私企業の社長交代だから、第三者がどうこういう問題ではない。
新社長に内定した豊田章男氏は、実質的な創業者ともいうべき豊田章一郎氏の孫にあたるという。
大変な時期だから、創業家に大政奉還して、難局を乗り切ろうということも理解できる。
しかし、正式に創業家のプリンスが社長に内定したということを聞くと、連結の営業赤字発表も、出来レースだったのか、という気がしてくる。
もちろん、トヨタ自動車は監査体制も万全であろうから、極端な会計操作などはないだろう。
それでも、期間損益に関しては、収益についても費用についても、判断の要素があることは事実である。
だから、利益の計算が、完全に一義的に決まるということではなく、努力の要素があることは、企業の現場では当たり前のことである。
その努力の方向として、利益を少なくしようとすれば、税務当局に見解が問われ、利益を多くしようとすれば、粉飾が問われる。
旧長銀の例では、粉飾の有無の認定に、10年近い裁判を要した(08年7月19日の項)。
旧長銀の場合は、大野木克信元頭取ら旧経営陣3人は、いずれも無罪となった。
つまり、粉飾ではないと認定され、巨大損失に関する経営責任は何が何だか分からなくなってしまった。
言い換えれば、利益計算に関してはいろいろな見方ができるので、トヨタ自動車のような巨大企業の場合、ある程度目標を定めれば、ある範囲内であれば、そこに着地することは比較的容易ともいえよう。
決算見通しの発表は、もちろん外部向けに行われる。
市場での公正な判断のためには、決算数値自身が信頼できるものでなければならない。
そのため、上場企業は、かなりのお金を払って監査法人に会計監査を依頼している。
監査法人から「無限定適正」というお墨付きを貰わなければ、その企業の存続は危ういということになる。
しかし、今回の赤字見通しの決算発表には、多分に内部向けの効果を狙った部分があるのではないか、と思う。
創業家への社長交代をいずれ行うことにするとすれば、そのタイミングをどう考えるかということが問題になる。
順風期と逆風期の両局面があるだろう。
2008年は、トヨタグループ(ダイハツ工業、日野自動車を含む)の世界販売台数がGMを抜いて世界一になったらしい。
GMは77年間世界一を維持してきたというから、歴史的である。
ここまでは、トヨタにとって順風だった。
しかし、世界的な景気悪化で、風向きが急転した。
GMは、今や存続が危ぶまれる状態になってしまった。
しばらくは逆風期が続くことは避けられないだろう。
としたら、これを引き締めの好機とできないか。
トヨタの役員会はそう考えたのではないだろうか。
赤字決算からのスタートであれば、新社長のプレッシャーも軽減されるだろうし、社内の志気も引き締まるだろう。
と考えれば、ここは可能な限り営業利益を低くすることが、一石何鳥にもなり得る。
おそらくはそういうような経緯を踏まえた上で、先ず営業赤字が発表され、社内的に一種のショック療法を施した上で、正式に社長交代の発表という段取りになったのだろう。
社長交代というのは、通常は4年に1度程度だろうが、章男氏はまだ52歳だから当然長期政権になることが予想される。
トヨタ自動車の動向の影響力は大きい。
デンソーが、1~3月に計11日間の工場操業停止に踏み切るという。
大規模な生産調整を実施するのは、1949年の創業以来初めてである。
秋葉原の歩行者天国で衝撃的な無差別殺人事件を起こした容疑者も、トヨタ系列の関東自動車工業への派遣社員だった(08年6月11日の項、6月22日の項)。
経済ばかりでなく、社会的にも大きな影響を及ぼすといっていい。
まあ、章男氏はクルマの申し子のような人らしいから、クルマ離れという流れの中でどう手腕を発揮するか、社会的責任の問題も含め、注目するとしよう。
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