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2009年1月18日 (日)

最近の大学事情と専門教育、教養教育

昭和44(1969)年の1月18日、東大安田講堂では、全国全共闘の学生と機動隊が激しく衝突していた。
その模様は、全国にTVで生放映され、安田講堂の攻防戦は、広く国民の関心事となった。
全共闘の学生は、1日持ちこたえたものの、圧倒的な装備の差にいつまでも抵抗できるはずもなく、翌19日に安田講堂は落城する。
全共闘運動は全国に拡散するが、次の主戦場と位置づけられた京都大学では、後に「狂気の3日間」と呼ばれる奇妙な事態が起きた。
安田講堂攻防戦の熱気が冷めやらぬ1月21日から23日にかけて、日大全共闘等の武闘勢力が押し掛けてくるというウワサの中で、大学の正門が「全共闘から大学を守れ」というスローガンによって逆封鎖されたのだった。
冷静さを取り戻すに連れ、この逆封鎖はベクトルを反転し、全共闘の問いかけを真剣に捉えようという雰囲気が、一般学生に広がっていった。

安田講堂の攻防戦に際し、全共闘議長の山本義隆さん(量子論の研究者、後に駿台予備校講師)は、直前に逮捕状が出ていたため東大構内から去った。
山本さんに代わって、安田講堂防衛隊長となったのが今井澄さんだった。
今井澄さんがマイクをとったと伝えられている最後の時計台放送は、胸に沁み込むものだった。

我々の闘いは勝利だった。全国の学生、市民、労働者の皆さん、我々の闘いは決して終わったのではなく、我々に代わって闘う同志の諸君が、再び解放講堂から時計台放送を真に再開する日まで、一時この放送を中止します。

今井さんは、沼津東高校から東大医学部に進み、60年安保闘争に係わって退学処分を受けていた。
復学後も1962年の大学管理法反対闘争で自治会中央委員会議長として、再度の退学処分を受けたという強者である。
現参議院議長の江田五月さんも、この時に退学処分を受けているし、旧大蔵省の過剰接待問題で批判を浴びた中島義雄さんも停学処分を受けている。

今井さんは、大学を卒業して医師としての道を歩み、地域医療への情熱から、1974年に茅野市の諏訪中央病院に赴任した。
1977年に、安田講堂事件の判決が確定し、静岡刑務所に服役するが、獄中も医学書を携えて勉強を続けたという。
刑期を終えると、1980年に、40歳の若さで諏訪中央病院の院長に就任したが、1988年に、院長の職を鎌田實さんに譲っている。
鎌田さんは、このブログで紹介したことがある。迷走状態にある定額給付金に替わる有意義な案の提示者としてである(08年12月10日の項)。
今井さんは、1992年に参議院議員になり、活躍が期待されたが、2002年にガンにより亡くなってしまった。

40年を経たが、全共闘運動の問いかけたものをどう考えたらいいだろうか?
今となってはうたかたのようにはかない思いがするが、「大学とは何のために存在するのか?」、「学問とはどのような営為か?」。
真面目に生きようとする学生にとっては、避けて通れないテーマだったように思う。
全共闘運動によって、それまで想定していた人生の行路を大きく踏み外してしまった人も少なくない。
その安田講堂の攻防戦も既に歴史となってしまった。
大学はどういう状態にあるのか?
今日も、大学入試のセンター試験が行われているが、このところ大学をめぐってさまざまな事件がひきもきらない、という感じで起きている。
有名私大のキャンパスで、大麻の取引が行われたと聞いても、余り驚かなくなってしまっているが、中央大学の将来を嘱望されている教授が、刺殺された事件はさすがに衝撃的である。
背景などは未詳だが、国家権力も不可侵の学問の府などという共同幻想は既に過去のものなのだろう。

もちろん、私はセンター試験はおろか、その前身の共通一次試験も体験していない。
とかくの批判はあるが、センター試験への歩みは、学力を公平に測定しようという一種の標準化の試みであり、大勢としてはマークシート方式を含め、進歩改良だといえるだろう。
しかし、問題は、大学へ入った後の教育である。

先日の新聞に、「観光立国」に対応すべき観光系大学のカリキュラムの問題が論じられていた。
観光系の学部・学科は、昭和42年に立教大学に観光学科が設置されたのを嚆矢とする。
後に多摩大学、宮城大学等のユニークな大学の経営に係わる野田一夫氏が初代の学科長だった。
ここ数年、学生集めの目玉として観光系の学部・学科が新設され、平成4年度に240人だった観光系学部・学科の定員が、平成20年度には3900人に増加した。

この観光系学部・学科に関して、産業界が求める「期待する人材像」と大学でのカリキュラムに齟齬があるのではないか、ということが問題になっている。
観光関連企業側では、「管理職・リーダーとしての素質・適性」、「どの部門にも対応できる基礎能力」、「社会人としての常識・マナー」を求める声が多いという(産経新聞/09年1月10日)。
これに対し、観光系学部・学科のカリキュラムは、歴史、政治、地理などの社会科学系分野を重視する傾向にあり、経営に関しては軽く触れる程度だという。

何だか違うよな。
産業界が求めている「管理職・リーダーとしての素質・適性」などは、大学のカリキュラムでどうこうなる問題ではないだろう。
「どの部門にも対応できる基礎能力」というのは、応用性の高い汎用的な学力ということだろうか。
最近の言葉では「地頭力」というのかもしれない。
産経新聞では、問題は、カリキュラムが、社会科学系を重視するか経営系を重視するか、と集約されている。
しかし、経営やマーケティングといった専門知識の問題なのだろうか?
ドッグイヤーとも言われている時勢である。大学で学んだ「知識」などは早晩陳腐化してしまうだろう。
必要なのは、経営やマーケティングの問題に柔軟に対応できる思考の力ではないだろうか。

センター試験でも、思考力を問おうということが言われるが、実際には難しいと思う。
としたら、せめて大学にいる間に思考力の訓練をすべきではないか。
大学から、教養という課程が消えてしまっているが、大学院重視化とも併せ考えれば、大学の学部教育はすべて教養の充実にあててもいいくらいだと思う。
業界の専門知識などは、就職して現場で身につけた方が、よほど効率的なのではないだろうか。

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