珍説・奇説の邪馬台国…④「山陰」説(田中文也)
出雲は、記紀神話の重要な舞台である。
しかし、かつては、めぼしい考古学的な発見が見られなかったことから、神話の理解に関して、さまざまな見方があった。
例えば、以下のようなものである。
「出雲神話は出雲と全く関係のない物語で、すべて大和朝廷に都合のいい筋書に改ざんされたもの。出雲は単に神話の舞台に仕立てあげられたに過ぎない」という意見がひと頃横行した。すなわち、「古代出雲には、自国の神話を後世に伝えるほどの強力な政治勢力も文化もなかった」というのである。出雲最大の古墳は、全長約92メートルの山代二子塚(松江市)。これに対し、吉備の造山古墳は350メートル、河内の仁徳陵に至っては450メートルもある。古墳の大きさは被葬者の権力に比例するだろう。とすれば、二子塚に眠る王さまは、小さな勢力に過ぎないことになる。つまり、6世紀初めごろの出雲には、吉備や大和のような強大な権力は存在しなかったことになる。
http://www.kankou.pref.shimane.jp/more/history/k_kaze1.html
ところが、昭和59年(1984)年8月17日、島根県簸川郡斐川町神庭西谷に位置する荒神谷の広域農道予定地から、それまで国内で発見された総数を上回る358本もの銅剣が出土した。
翌年には、銅剣埋納地からわずか7~8m離れたところから、今度は銅鐸6個と銅矛16本が発見された。
これらの青銅製祭器が古代出雲の地で大量に発見されたことで、それまでの考古学の常識が覆された。
神庭荒神谷遺跡と命名されたこの地から銅鐸と銅矛が同時に出土したことで、私たちが小・中学校の頃教わった「"銅鐸"は近畿、"銅剣・銅矛"は九州」という学説("弥生時代の青銅器二大分布圏")が通用しなくなった。
さらに、平成8(1996)年10月、この遺跡から南東約3.4kmの地点にある加茂岩倉で、39個という大量の銅鐸が見つかり、出雲は全国最多の銅鐸保有国になった。
神庭荒神谷遺跡と加茂岩倉遺跡の存在で、古代の出雲は青銅器王国だったことが明らかとなり、強大な政治勢力が存在したことが想定されている。
http://www.bell.jp/pancho/travel/izumo/kojindani%20iseki.htm
青銅器は、水田稲作と共に、弥生時代を特徴づけるものである。
邪馬台国は弥生時代の終末期に出現し、古墳時代の初頭の頃、倭国の都として魏に認められた。
つまり、邪馬台国は、弥生時代に最も栄えた地域の1つだったといってよい。
とすれば、出雲からの大量の青銅器の出土という事実は、出雲もしくは山陰が、邪馬台国の有力候補地の資格を有することを示しているのではないか。
同じ山陰の鳥取県で、妻木晩田遺跡という弥生時代後期の大規模な遺跡が発見されている。
吉野ヶ里遺跡を超える大規模なものであり、竪穴住居、掘建柱建物跡、墳丘墓(四隅突出型墳丘墓含む)、環濠等が検出されている。
一連の集落は弥生時代後期を中心に中期終わり頃から古墳時代前期初頭にわたって営まれている。
いわゆる倭国大乱(08年11月29日の項)の影響とされる高地性集落であるが、比較的大規模で長期にわたる例は少なく、注目される。
妻木晩田遺跡からは、鉄製の鋤やノミなどの鉄器が多数発見されており、北部九州を除くとずば抜けた多さで、奈良県などより遙かに多い。
「魏志倭人伝」にも、弓矢に鉄鏃が使われているという記載がある。
当時の鉄の産地は、弁辰(朝鮮半島南部)と考えられており、妻木晩田遺跡のように、日本海に面した地域は弁辰からの鉄輸入において優位な立地だったであろう。
山陰の青銅器文化が終わる頃、四隅突出型墳丘墓という形態の墓が、中国地方の山間部から山陰一帯、富山県辺りまで増殖した。
妻木晩田遺跡からは、17基も発掘されている。
山の尾根一面に巨大なヒトデが張り付いているように見えるが、妻木晩田遺跡ほと四隅突出型墳丘墓が密集した地域は他に見られないという。
岩田一平『珍説・奇説の邪馬台国』講談社(0004)によれば、四隅突出型墳丘墓の分布域は、オオクニヌシの行動範囲と重なっている。
オオクニヌシは、出雲では国土創造神とされており、四隅突出型墳丘墓をシンボルとした連合体が、弥生時代後期に山陰・北陸地方にあった、と考えられる。
オオクニヌシは、その連合体の王として担がれた人物が語り継がれたのだろう、というのが岩田氏の推論である。
妻木晩田遺跡は、その連合体の中でも、有力な国であった、ということだろう。
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