「レジ袋」の有料化について②
地方自治体などの後押しによって、スーパーなどが推進している「レジ袋」の有料化について、それが環境問題に対して貢献するのかどうか疑問であり、エコとか環境という言葉には、「うさん臭さ」がつきまとっているのではないか、という旨記した(08年12月9日の項)。
偶々手にした武田邦彦『偽善エコロジー―「環境生活」が地球を破壊する』幻冬社新書(0805)の冒頭に、「レジ袋を使わない」というエコな暮らしは、ただのエゴに過ぎない、とあり、我が意を得た。
著者の武田邦彦氏の略歴を、同書の紹介欄から引用する。
一九四三年東京都生まれ。東京大学教養学部卒業。工学博士。専攻は資源材料工学。名古屋大学大学院教授を経て、現在、中部大学総合工学研究所教授(副所長)。多摩美術大学非常勤講師を兼任。日本工学アカデミー理事。内閣府原子力安全委員会専門委員。文部科学省科学技術審議会専門委員。著書に『環境問題はなぜウソがまかり通るのか1,2』(洋泉社)、『リサイクル幻想』(文春新書)などがある。『エコロジー幻想』(青春出版社)の一節は、高等学校の国語教科書『新編現代文』(第一学習社)に収録されている。
環境問題の専門家として、立派な履歴の持ち主といっていいだろう。
早速、「レジ袋」についての項目を見てみよう。
冒頭の文章は以下の通りである。
レジ袋は石油の不必要な成分を活用した優れもの
少し前から問題になりかけていましたが、2007年になって急に「レジ袋追放運動」が起こり、最近ではスーパーに行くと、「レジ袋はいりますか」と聞かれたり、時にはレジ袋を使おうとすると怒られそうなことすらあります。
あまりよく考えないで、ただ、業者の尻馬に乗った人から、「環境が大切だってことを知らないのですか!」などとお説教されるのには閉口します。
確かに、こういう風潮は経験しているところである。
武田氏は、レジ袋の追放は、次の3つのことをもたらす、とする。
①レジ袋に使っていた石油の成分を、違う用途にまわさなければならないこと
②レジ袋に代わる買い物袋を製造すること
③ゴミを捨てるときにレジ袋に代わる専用ゴミ袋を作らなければならないこと
石油の成分は、大昔の生物の死骸なので、その構成が現在の私たちの需要と一致していない。
石油化学の発展によって、石油の成分の利用率が高くなり、余分なものとして燃やしてしまう成分は非常に少なくなっている。
レジ袋の成分のポリエチレンは、かつては仕方なく燃やしていたものを、原料として製造するものである。
そのレジ袋を追放すると、レジ袋の原料になっていたエチレンの需要がその分減少するが、石油全体の消費量が減少するわけではない。
他の成分もエチレンと同量減らすことによって初めて石油消費減少の効果が出てくるのである。
また、新しい買い物袋として、エコバッグ(マイバッグ)が推奨されている。
武田氏によれば、エコバッグの原料は、BTX成分(ベンゼン、トルエン、キシレン)であり、石油成分としては希少なもので、用途は豊富にある。
ということは、レジ袋の代わりにエコバッグを買うとする。
エコバッグも永遠に1つで済ますわけには行かないので、1年に1回買い換えるとすると、BTX成分を使ってエコバッグを作り、余った成分は燃やすということになりかねない。
毎日の生活から出てくる生ゴミや小さな紙くずなどを捨てるには、「袋」が必要となる。
レジ袋をリユース(再利用)するのが最も合理的である。
しかし、多くの自治体では、レジ袋のリユースは禁止され、レジ袋と同じ成分でできた専用ゴミ袋の使用が義務付けられている。
私の居住する自治体や周辺の自治体は、みなそういうキマリになっている。
武田氏は、「これほど非合理的なことが起こるとはビックリします」と書いている。
「レジ袋」に関して、以下のようなデータが記載されている。
現在、一次エネルギーの国内供給は、全体で約2万3000TJ(テラジュール)です。石油はそのうち9000TJほどで、全体の約4割を占めています。この9000TJを石油の重量に換算すると、5億4000万トンになります。
レジ袋に遣っている石油重量(消費量)は現在25万トン。仮に、百歩譲って、レジ袋と追放し、専用ゴミ袋とエコバッグを使うことで石油消費量が半分になり、12.5万トンになったとしても、全体のエネルギー量からすると、わずか0.023%の削減にしかなりません。
ちなみに、12.5万トンという量は、多いのか少ないのか?
日本が地球温暖化対策として進めようとしている削減目標の240分の1に相当するという。
つまり、レジ袋の追放と同じことを、240個実行することが必要で、そんなことをしたら生活が破綻してしまう、と武田氏はいう。
つまり、レジ袋の追放などは、個人が勝手に使わないのは別として、社会運動として展開したり、他人に強制するものではない、というわけである。
武田氏の意見に関しては、WIKIPEDIAには、「科学的に不正確な点や誤謬、根拠としているデータが捏造であるとの批判がある」と記されている(08年12月4日最終更新)。
しかし、「環境問題」はなぜか「生活を不便にすることが環境によいことになる」とおいう錯覚を生じやすく、という意見は正鵠を射ていると思う。
(追記)として、環境省リサイクル推進室橋本室長輔佐が、毎日新聞に掲載した以下の内容の文章が掲載されている。
「レジ袋は、原油使用量削減のために取り組んでいるのではない」
「ペットボトルなどのリサイクルに力を費やしたが、1人当たりの家庭用ゴミ排出量はほとんど変わらずゴミの減量効果はなかった。そこで、ゴミ自体を出さないリデュース(発生抑制)への転換の象徴的な存在としてレジ袋に着目した。ライフスタイル転換のきっかけにしようという意味合い」(08年7月17日付夕刊二面)。
橋本室長輔佐のいう、ゴミ発生抑制的ライフスタイルへの転換は、私も大いに賛成である。
しかし、レジ袋の追放が、ゴミ発生抑制的ライフスタイルの象徴というのは、大間違いというべきであろう。
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