「百人一首」を定家はどう撰んだか?
蓮生入道に撰歌を任された定家は、宇都宮氏の縁起を思い浮かべながら、撰歌を進めたであろう。
以下は、三好正文『猿丸大夫は実在した!!―百人一首と猿丸大夫の歴史学!!』創風社出版(0010)による定家の撰歌過程である。
①宇都宮氏ゆかりの「日光山の縁起」の主役・猿丸大夫の歌を採用する。
②「縁起」の「鹿に導かれて日光山に入る猿丸大夫」に因んで、鹿の歌を採用する。
③『古今集』では「よみ人知らず」だが、藤原公任が『三十六人撰』で「猿丸大夫作」としている「奥山に……」の歌を採用する。
④父・俊成の歌も鹿の歌を採用する。「世の中よ……」の歌は、猿丸大夫の歌とも印象が似ている。類似した2つの歌を選ぶことで、藤原家と宇都宮家の親密な関係が永続することを願う。
⑤宇都宮氏もかつては藤原氏であり、藤原氏の氏神は奈良の春日大社で、神の使いは鹿である。
藤原定家が、猿丸大夫と藤原俊成が同工異曲の歌が撰ばれていることについて、否定的な見解が多かった(08年7月25日の項)が、定家は意図して同工異曲の歌を撰んだというのが三好氏の見解である。
頼綱と定家の関係、宇都宮氏の神主家としての歴史、『日光山並当社縁起』の「ものがたり」等々を勘案すると、猿丸大夫の撰入や「奥山に……」と「世の中に……」の「鹿」を主題とする撰歌は、自然であるし、三好氏の説明からすれば必然とも思える。
ところで、「百人一首」の配列には、どのような意味があるのだろうか?
基本的には、歌人を時代順に並べたものとされる。
そして、冒頭と末尾については、次のような対応関係がある。
「1・天智天皇」と「2・持統天皇」は、親子で、律令国家形成に貢献。
「99・後鳥羽上皇」と「100・順徳天皇」も親子で、律令国家崩壊(武家政権の確立)に直面。
「3・柿本人磨」と「4・山部赤人」は、『万葉集』(古代歌謡成立期)の代表的歌人。
「97・藤原家隆」と「98・藤原定家」は、『新古今集』(当代)の代表的な歌人。
さらに、三好氏は、次のような対応関係を指摘する。
「5・猿丸大夫」と「96・入道前太政大臣」の対応。
「96・入道前太政大臣」とは、藤原(西園寺)公経のことで、「百人一首」には、次の歌が撰ばれている。
花さそふあらしの庭の雪ならで ふりゆくものはわが身なりけり
1221年の「承久の乱」は、北条義時・泰時親子の鎌倉幕府に、後鳥羽上皇を中心とする京都の公家政権が戦いを挑んだものだった。
結果は、幕府側の圧勝で終り、後鳥羽上皇・土御門上皇・順徳天皇は配流され、京都は六波羅探題の支配下に入って、武家政権が確立した。
公経は、源頼朝の妹婿・一条能保の娘を妻としていたことから、鎌倉方と天皇方の調整役を務めていたが、乱に際して、情報を鎌倉方に流し、鎌倉方圧勝を導いた。
その判断力によって、公経は太政大臣にまで上り詰めることになる。
公経の北山の別荘は西園寺と呼ばれ、やがて西園寺公経と呼ばれるようになる。西園寺は、後に足利義満によって、鹿苑寺金閣に改造される。
西園寺公経の一族は太政大臣を歴任するが、1467年の「応仁の乱」を機に、伊予国宇和郡に下向して、戦国大名・西園寺氏となる。
藤原公経と定家は、定家の妻が公経の姉という関係にあった。
つまり、宇都宮頼綱と西園寺公経は、共に定家にとって身近な姻族であった。そしてこの二人の強力な支援が、定家・為家親子の栄達を可能にしたのだった。
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