藤原定家と宇都宮頼綱の関係
百人一首は、「カノ入道」こと宇都宮頼綱が藤原定家に頼んで、障子(現在の襖)を飾るために、選歌と揮毫をしたものとされる。
宇都宮頼綱とは如何なる人物か?
宇都宮氏は、藤原道長の兄であった道兼の曾孫の宗円が開祖の氏族である。
道兼は関白就任後10日にして急死し、道長がその後を継ぐが、都の政治を私物化して栄華を誇ったことは、次の歌からも理解できる。
この世をばわが世とぞ思ふ望月の 欠けたることのなしと思へば
傍系の宗円は、大津・石山寺の座主を務めていたが、時代は大きく動きつつあった。
「前九年の役」(1051~1062年)に際して、宗円は、神仏の力で勝利祈願するため、東山道の最前線だった下野国(栃木県)に派遣され、宇都宮座主に任じられた。(三好正文『猿丸大夫は実在した!!―百人一首と猿丸大夫の歴史学!!』創風社出版(0010))。
祈願の甲斐あって、安倍氏は制圧され、その功績で宗円は下野に土着し、二代目宗綱と共に神主として活躍すると同時に、下野国の国守となった源義家・源義朝に協力して、下野の武士を支配下に収めて行く。
三代目宇都宮朝綱は、宇都宮検校と日光山別当を務める一方で、伊豆で挙兵した源頼朝に協力して活躍し、鎌倉幕府の有力御家人となった。
四代目業綱は若くして亡くなり、朝綱の権勢は五代目の頼綱に引き継がれる。
頼朝の挙兵が1180年、平家打倒が1185年、鎌倉幕府の樹立が1192年である。
この間、「頼朝の乳母(養育者)の果たした役割が大きかったことが知られている。
その乳母の1人に、寒河尼がいた。宇都宮朝綱の妹である。
下野の有力武士・小山政光に嫁ぎ、小山朝政や宗朝を産む。
朝政は、下野国の守護となり以後代々小山氏が下野守護職を務める。
宗朝は下総国北西部を支配して、結城朝光を名乗り、結城氏は有力武士に成長していく。
宇都宮氏・小山氏・結城氏という北関東の有力武士団は、寒河尼を介する血縁関係で結ばれ、頼朝とも深く結びつくことになった。
頼綱は、これらの関係に加え、妻に以下のような有力武将の娘を迎えてその地位を強化していく。
①稲毛重成(武蔵国の有力武士)の娘 → 時綱(長男)
②梶原景時(頼朝の参謀格)の娘 → 頼業(二男)
③北条時政の娘(政子の異母妹) → 泰綱(三男)・宗綱(四男)・藤原為家の妻となる娘
宇都宮氏の基盤は磐石なものとなっていったはずであるが、頼朝の死後、北条氏によって有力御家人が排除されていく。
梶原景時、比企能因、畠山重忠、稲毛重成らの頼朝の重臣が消されていき、頼綱の妻の父たちも粛清される。
1205年には「牧氏の変」が起きて、頼綱の妻の父・北条時政と母・牧の方が失脚させられた。
「牧氏の変」とは、『吾妻鏡』に記されているもので、牧の方が自分の産んだ娘の婿の平賀朝政と結託し、源実朝を暗殺して、朝政を将軍にしようと陰謀を計画した事件であり、陰謀は事前に発覚して、時政は息子の義時により、伊豆に幽閉された。
宇都宮頼綱にも陰謀関与の疑いが向けられるが、60人の家来と共に出家して鎌倉に向かう。
北条義時は対面を許さず、結城朝光が頼綱の髪を義時に見せて謝罪し、一件落着となる。
宇都宮氏は、北関東の雄として戦国大名となり、栃木県の県庁所在地宇都宮市の地名の故となる。
出家した頼綱は、仏門に帰依して蓮生入道を名乗り、京都の別荘で隠棲生活を送り、定家と出会い、それが「百人一首」を成立させることになった。
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