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2008年7月21日 (月)

『オカネとウソの論理学』

柳澤賢仁『オカネとウソの論理学』サンクチュアリ出版(0805)という本を積んでおいたら、長銀粉飾決算事件の最高裁判決が出たので、ちょうどいい機会と思い、一読した。
著者紹介欄によれば、祖父、父、叔父が公認会計士・税理士という一族だという。
税理士試験に合格後、アーサー・アンダーセン税務事務所等を経て独立。
論文『不確実性の税務』で、2007年度日税研究賞(税理士の部)を受賞した、ということである。

冒頭の扉で、柳澤氏は、次のように問いかける。

こどもからこう聞かれたとします。

「オカネって、なあに?」
「なんで、ウソついちゃいけないの?」

おとなのあなたはどう答えますか?

そして、偽装問題をテーマに、「あなたは、偽装をしたことがないですか?」と問う。
柳澤氏は、そう問いかけて、偽装の定義を国語辞書から引用して、「ある事象をおおい隠すために、他の物事・状況をよそおうこと」とし、「嘘をつくこと」と言い換えられるとしている。
その上で、「小さな嘘、大きな嘘、程度の差こそあれ、嘘なら誰でも一度はついたことがあるのではないでしょうか?」とする。

確かに、「ウソを一度もついたことがない」という人がいたら、その人の言葉を信用するだろうか?
誰でもウソはつく。しかし、なかなか正面から向き合うということがない問題でもある。
柳澤氏は、「ウソとかオカネ」については、「さじかげん」の領域があり、デジタルに割り切れないという。そして、だからこそ、「そもそも論」が必要なのではないか、と問う。

なぜ、嘘をついてはいけないのか?
なぜ、お金を儲けてもよいのか?

「そもそも論」というのは、日常生活では看過されがちであるが、一筋縄ではいかない問題に対しては、そこに立ち戻ることが重要だと思う。
そして、世の中の多くの問題が一筋縄ではいかないではないか。
だから、「そもそも論」は重要だと思う。

例えば、長銀粉飾決算事件というのは、長銀の決算処理が、ルールに適合していたのか、ルールを逸脱していたのかが問われた案件である。
柳澤氏は、司法試験の塾で有名な伊藤真氏の『伊藤真の憲法入門』日本評論社(0403)を参照しつつ、法律について、以下のようにまとめる。

・まず、世の中には「ルール」というものがある。
・スポーツであろうと、会社・学校であろうと、いつの時代でも人が2人以上集まって共同体ができれば、必ず何らかのルールがある
・ルールは大きく2種類に分けられ、ひとつは「法則」、もうひとつは「規則」である
・法則というのは、自然法則や社会法則のことで、たとえば、水素と酸素は結合して水になるとか、需要が供給を上回ると物価は上昇するとか、「~である」ということ
・一方で、規則とは「規範」のことで、法律や学校の規則、これが規範にあたり、「こうあるべきである」ということ
・規範の一例として、「社会規範」というその地域の人々の価値観があって、社会規範の一つとして、法律というものがある
・だから、法律は、一定の時代の一定の地域の価値観のあらわれであり、裏返せば、絶対のものではない
Photo・まとめると、法律とは国家による強制力を伴った社会規範である

これらの関係を図示すれば、左図のようになる。
世の中は常に動いている。
だから、価値観の変化は常態と考えられる。つまり、社会規範は、時々刻々に変化する。
つまり、規範に揺らぎが生じるのは避けられない。
しかしながら、法律は一定の手続きを踏んで定められるものであるから、常に規範と法律との間にはギャップが存在する可能性がある。
図に示すように、社会規範と不適合な法律もあり得るということである。

Photo_2規範が揺れているのであるから、法律を遵守していても社会規範から逸脱することもあり得るし、社会規範に適合していても、法律から逸脱しているということもあり得る。

粉飾をウソの一形態とすると、ウソはどのような位置づけで考えられるだろうか?
ウソを図のように位置づければ、「法律で罰せら れるウソ」と「法律で罰せられないウソ」とがあることになる。

ところで、長銀粉飾事件は、長銀の旧経営陣の会計処理が、「法律で罰せられるべきウソ」であったのか否Photo_3か、ということであった。
結果的には、「法律で罰せられるものではない」という判断が示されたわけである。
とはいえ、図を見ていると、果たして「社会規範の観点から見た場合、「長銀旧経営陣の処理はどうだったのか?」、あるいは、「社会的な規則に照らしでどう判断するのが妥当なのか?」、最高裁の判断ですべてが完結しているわけではないことが分かる。

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