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2008年6月 2日 (月)

「君が代」論争

5月29日に、平成16(2004)年3月に、東京都立板橋高校の卒業式で、国歌斉唱の際の不起立を呼びかけ、式典の開始を遅らせるなどして、威力業務妨害罪に問われた元同高校教諭に対して、東京高裁が、罰金20万円を課す判決が下された。
この裁判は、一審の東京地裁の判決に対する被告側の控訴を棄却したもので、被告側は即日上告している。
なお、求刑は、懲役8月だったから、有罪判決ではあったものの、量刑的には原告側主張は受け入れられなかったとみることもできる。

この裁判は、「君が代」の内容が争われたわけではなく、被告の行為が「威力」に当たるか否かが争われたものである。
弁護側は「君が代斉唱を義務付けた都教育委員会の通達は民事訴訟で違憲と判断され、通達に反対する呼び掛けは正当防衛」と訴えた。しかし、須田裁判長は「外部に対する積極的な表現行為により円滑な進行を阻害した」として威力性を認定し、「憲法21条は表現の自由を無制限に保障したものではない」と述べた。
なお、元教諭は、来賓として卒業式に招かれていたものだ。

元教諭の行為によって、卒業式の開始が約2分間遅れたという。
率直に言って、2分程度の遅れだったら、さほど大騒ぎすることもないような気がする。「威力業務妨害」というのは、いささか大仰ではないだろうか。
同時に、来賓として招かれていたのならば、式典の主催者の意に背くような行為も如何なものだろうと思う。
「君が代」を起立して斉唱することに反対ならば、卒業式の場以外のところで訴えるべきではないだろうか。
しかし、最も問題にすべきは、「君が代」斉唱を義務付ける都教育委員会の通達であろう。

都教委の通達は、平成15(2003)年10月23日に出されたもので、以下のような内容である。

1 学習指導要領に基づき、入学式、卒業式等を適正に実施すること。
2 入学式、卒業式等の実施に当たっては、別紙「入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針」のとおり行うものとすること。
3 国旗掲揚及び国歌斉唱の実施に当たり、教職員が本通達に基づく校長の職務命令に従わない場合は、服務上の責任を問われることを、教職員に周知すること。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/press/pr031023s_2.htm

この通達に対しては、平成18(2006)年9月21日、東京地裁が違憲判決を下している。
原告にはさまざまな人が含まれていたが、教員である以前に1市民としての個人史を持っており、その個人史から、日の丸・君が代を強制されることを苦痛に感じたり、強制に抵抗せざるを得ない、というのが原告側主張の根幹だ。
裁判は継続中で、最終的に確定しているわけではないが、違憲判決が出ていることはきちんと受け止めるべきだろう。
私は、日常生活において、関心の対象外にあるものを、儀式の際だけに強制しようとするところにムリがあるのではないかと思う。

国旗・国歌を法制化しようという動きの直接の契機は、1999年2月28日に、広島県の県立世羅高校の校長が、日の丸掲揚・君が代斉唱をするかどうかで、県教育委員会と県教組との間で板ばさみになり、悩んだ結果、自殺した事件が起きたことだった。
法的根拠が曖昧であることが混乱を増幅させたとする意見が、法制化推進を後押ししたということになる。

私自身は、「君が代」を歌わなければならないような儀式に出席する機会は滅多にないが、式次第に「国歌斉唱」とあるような場合には、ためらわずに歌う。
それは、「君が代」の意味・内容などとは余り関係なく、その式典の主催者に敬意を表するというような意味合いにおいて、である。
しかし、正直な話、「君が代」のメロディは、いささか歌いづらいとは思う。

「日の丸」や「君が代」に対しては、東亜・太平洋戦争の経緯等から、中国などには極端な反発がある。
その代表例が、今回の四川大地震の被災者救援に、自衛隊の輸送機を使うことの是非論の中に出てきた意見だろう。
中国内には、自衛隊を、旧日本軍と重ねてみる見方がある。
それは、中国政府の「反日=愛国」のプロパガンダの影響が大きいだろうが、中国侵略の事実は否定できないのだから、根気よく対応するしかないのではないか。自衛隊機に付いている「日の丸」が、強いシンボル性になっているらしい。

震災の被害者にとっては、一刻も早い救援物資を待っているだろう。それに自衛隊機を使うかどうかは、政府の判断である。
今回の場合、日本の政府内には、過去の経緯に留意するよりも、自衛隊機を公認させるいい機会だと捉えた向きがあったようだ。
つまり、今回の救援活動で自衛隊機が使用されれば、中国政府が自衛隊批判をしづらくなるだろう、という判断である。
もし、自衛隊機派遣が、本当に日中の関係改善に役立つならば、それは結構なことだと思う。

中国との関係あるいは東アジア世界での日本のポジションは、古代史の時代からの重要テーマである。
靖国参拝を強行した小泉元首相とは違って、福田首相は基本的に親中派だという。しかし、今回の対応は、いささか姑息で、大局的な判断に欠けていたのではないだろうか。
どうも福田政権の打つ手にはチグハグなことが多いような気がする。

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