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2008年6月 5日 (木)

『万葉集』とは?

『雲の墓標』(5月27日の項)の主人公たちが学んでいた『万葉集』とは、どういうものだろうか?
『万葉集』の名前は、日本人ならば誰でも知っている、と言ってもいいだろう。しかし、具体的に、それがどういうものであるのか、ということになると、明快に説明でできる人の数はぐっと少なくなるのではなかろうか。
櫻井満監修『万葉集を知る事典』東京堂出版(四版:0407)によって、その概要を見てみよう。

先ず、『万葉集』は、現存するわが国最古の歌集である、ということになる。
『古事記』や『日本書紀』には、歌謡や民謡が記載されているが、それらが和歌として形式的な完成を見せるのも、『万葉集』ということになる。
ところで、不思議なことであるが、これだけ有名な『万葉集』について、その名前の由来や成立の事情について、『日本書紀』にも『続日本紀』にも、記載がない。
記載がない、という事実が、これらの正史と『万葉集』との関係の一端を示していると考えられるが、その関係については諸説があって、いまだに定説とされるものはないようである。

成立の事情について、上掲書は、収載されている歌の性格をもとに、以下のように考察している。
1.歌の詠まれた時代
『万葉集』には4516首の歌が収められており、作者の総数は約450名である。
作者として最も古い時代の人は、巻2の冒頭に次の4首が載る磐姫皇后である。

君が行き日(ケ)長くなりぬ山たづね迎へか行かむ待ちにしか待たむ (85)
かくばかり戀ひつつあらずは高山の磐根し枕(マ)きて死なましものを (86)
ありつつも君をば待たむ打ち靡くわが黒髪に霜の置くまでに (87)
秋の田の穂の上に霧らふ朝霞何處邊の方にわが戀ひ止まむ (88)

磐姫皇后は、仁徳天皇の皇后で、履中・反正・允恭の3天皇の母だとされる。
皇后の留守中に、仁徳天皇が八田皇女を召し入れたことを最後まで許さず、史上最も嫉妬深い皇后ということになっている。
上記4首は、磐姫皇后の実作ではなく、それぞれ独立した歌を編者が、起承転結というような形で構成したものだろうとされる。
「あせり-高ぶり-静まり-嘆き」といった心の変化である。

作者がほぼ連続するようになるのは、舒明朝(629年即位)から、最後の大伴家持の歌が作られた天平宝字3(759)年までの、ほぼ130年間である。
『古事記』(712年成立)が、舒明天皇の1代前の推古天皇で閉じられていることが注目される。
『万葉集』の巻1・2は、歌が時代順に並べられており、それぞれの時代のはじめに、「何々の宮に天の下知らしめしし天皇の代」という標目が記されている。
例えば、上記の磐姫皇后の場合には、「難波高津宮に天の下知らしめしし天皇の代/大鷦鷯天皇諡して仁徳天皇といふ」というように書かれている。
『古事記』でも、「何々の命、何々の宮に坐しまして、天の下治めたまひき」とあることから、書式的に共通性があるといえる。

『万葉集』の後の時代の歌をもとにして編まれた『古今和歌集』には、平仮名交じりの「仮名序」(紀貫之)と漢文体の「真名序」(紀淑望)がある。
「仮名序」では、『万葉集』に入らない古い歌や撰者たちの歌を奉らせて、それらをもとにして編んだと説明され、「真名序」では、「家の集」と「古来の旧歌」を奉らせて「続万葉集」として、それらを分類して20巻にまとめたと説明されている。
つまり、『古今和歌集』は、家々の歌を集めた「家の集」と、『万葉集』に入っていない古くから伝わる歌をもとにして編まれたということになる。
一方、『古事記』の太安万呂の書いた序文では、『古事記』が完成するまでの経緯として、「帝皇の日継(帝紀)」と「「先代の旧辞(本辞)」をもとにしてできあがったと記されている。

『万葉集』には序文がないが、『古事記』と『古今和歌集』の序文には、編纂の際の資料についての対応関係があることになる。
「帝皇の日継」に対して「家の集」があり、「先代の旧辞」に対して「古来の旧歌」がある、という関係である。
前者は、歴代の天皇家の系譜と家々に集められた和歌、後者は、宮廷の周辺に伝来した物語と歌ということになる。
これを『万葉集』にもあてはめてみると、<家々の歌集>と<宮廷伝来の古歌>を資料として編まれたとみることができる。
つまり、『万葉集』の編纂資料として、<家々の歌集>ともいうべき多くの先行歌集があること、巻1の宮廷を祝福賛美する讃歌のような<宮廷伝来の古歌>があったということになる。

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