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2008年4月29日 (火)

天皇家のルーツ②騎馬民族征服王朝説

今日、4月29日は、国民の祝日である。
私たちの世代にとっては、「天皇誕生日」という言葉の方が馴染みがあるが、昭和天皇が亡くなって「みどりの日」と改称され、昨年から「昭和の日」となった。
草田男流に言えば、「昭和は遠くなりにけり」という感もするが、この際呼称は余り重要ではなく、ゴールデン・ウィークという連休の維持の方が、大多数の関心事だったということだろう。

ところで、戦前・戦中の皇国史観の下では、天皇家のルーツ(08年4月25日の項)に関するオープンな議論などは、もちろんご法度だった。
だから、戦後になって、江上波夫さんが発表した「騎馬民族征服王朝説」は、大きな反響と波紋を呼んだ。
それは一言で言えば、大陸からやってきた騎馬民族が征服王朝を築き、日本の支配層になった、とするものである。万世一系を否定するものと言えよう。

井上さんという、福岡県立朝倉高校のOBとおぼしき人が、「邪馬台国大研究」と題して、邪馬台国を中心に日本古代史に関する膨大な探究を収録したサイトがある。
http://inoues.net/index.html
「膨大な探究」と言ってもアマチュアのものであるが、私などは大いに啓蒙されることが多く、その探究心を大いに尊敬している。生涯学習という言葉があるが、そのモデルではないかとも思う。
その井上さんのサイトの騎馬民族征服王朝説に関する部分を引用させてもらおう。

3世紀末にツングース系騎馬民族(夫余族)の高句麗が、朝鮮半島を南下して南朝鮮を支配する。百済王はこの騎馬民族の首長ではないかと江上氏は示唆している。この騎馬民族はやがて4世紀になって北九州に上陸しこの地を征服する。その時朝鮮からやってきて、後100年ほど続く「九州王朝」の開祖となった者が、後に「崇神天皇」と呼ばれるようになったと言うのである。現天皇家の始祖はここにあるとする。江上氏によればこれが「第一回の建国」ということになる。
「九州王朝」はやがて「応神天皇」を戴いて近畿征服を果たす。この北九州から近畿への遠征が「神武東征」として日本神話に反映している。「第二回目の建国」である。ちなみに、崇神の渡来はニニギノミコトによる高千穂峰への降臨として説話に残っている、と言う。

騎馬民族征服王朝説には、反論も多く学界の定説となっているわけではない。
しかし、朝鮮半島からの渡来者が九州に上陸し、そこで権力を固めて近畿に東征した、という部分に関して言えば、藤井游惟氏の歴史認識(08年4月16日の項)も共通であり、現時点では、多くの識者が考えていることではなかろうか。
しかし、「騎馬民族征服王朝説」が発表された当時は、相当の勇気を要することだったと思う。
再び井上さんの言葉を引用させてもらう。

人物の特定はひとまず置くとして、大まかな民族や権力構造の成立過程については大いに示唆に富んだ説であろう。しかも、戦後まもなくまだ人々が敗戦の痛手からも立ち直っておらず、天皇家神聖視の気風も完全には消え去っていない昭和23年という時点で、こういう説を公にしたという勇気には驚かざるを得ない。天皇家の始祖は朝鮮にあるという事を堂々と唱えたのである。旧日本軍が支配し、虐げ、搾取した朝鮮民族。自らは崇め奉っていた天皇がその被支配者層の出自だと言うのである。

精細な事実関係の検証はともかくとして、タブーが解き放たれて、新しい視野が開かれた鮮やかな事例だと思う。
江上説を否定する論者は少なくない。
例えば、国立歴史民俗学博物館の館長を務めた佐原真氏などが代表選手である。
騎馬民族は来なかった』日本放送出版協会(9309)というそのものズバリの著書もある。
また、江上氏との対論で、『騎馬民族は来た!?来ない?! 』という著書もあるが、版元の小学館による読者へのアンケートでは、江上説の支持が80%に及んだという。

どうやら、専門家には支持者が少なく、アマチュアには支持者が多いということだろう。
80%の人が江上説を支持しているということは、アンケートの対象者が著書の購入者が対象だろうから、この問題に関心を持つ集団というバイアスがかかっている。
それは問題意識を持っているというバイアスであり、そういう層においての評価である。
藤井游惟氏の「上代特殊仮名遣い白村江帰化人記述説」も、専門家よりも問題意識を持ったアマチュアが支持する説ではないかと思う。
江上説が大きな反響を呼んだのは、騎馬民族という言葉の意外性も大きいだろう。
われわれは、日本人は上から下まで農耕民族という先入観を持っており、支配階級が騎馬民族の系譜であるという論には少なからぬショックがあったのではないか。

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