大化改新…⑭異説(ⅱ)小林惠子
異説の代表選手は、小林惠子(ヤスコ)氏であろう。
小林氏は、『白村江の戦いと壬申の乱 補訂版―唐初期の朝鮮三国と日本』現代思潮社(8805)を初めとして、多くの著書があり、それぞれが相当部数売れているようなので、読者の数も多いと思われる。
しかし、その論の内容は、異説というよりも異端の説と呼ぶのが相応しい。
小林氏の議論は、日本古代史を東アジア全体との関連で捉える視野の広いものであるが、特に以下の2点が特徴的である。
①朝鮮半島との間で人物像が錯綜していること
②新異説讖緯説的表現に関する独特の解読
讖緯説とは、自然界と人間界とは密接な相関関係があるとして、陰陽五行説にもとづき、日食・食・地震などの天変地異を予測したり、緯書(孔子など聖賢が述作した経書に付託して禍福・吉凶・符瑞の予言を記した書)によって人間の運命を予測したりする説。先秦時代(紀元前221年の秦による天下統一以前の時代、周初より春秋戦国時代)から起こり漢末に盛んとなるが、あまりにも弊害が多いので晋時代以降はしばしば禁じられた、とされるものである(http://www.bekkoame.ne.jp/i/ga3129/435tennousei.htm)。
ここでは、小林氏の所説の集大成とも見られる『興亡古代史―東アジアの覇権争奪1000年』文藝春秋(9810)から上記を拾ってみよう。
小林氏の人物像で最も有名なものは、「聖徳太子は西突厥の王だった達頭(タルドゥ)可汗だった」というものであろう。
俄かには信じがたい説であるが、小林氏は、達頭は北アジアの草原の道を通って朝鮮に来て、百済に入りその王朝に迎えられて法王になった。
そして、そのまま日本に移り住んで播磨の斑鳩に住み、蘇我氏に迎えられて大和の大王になった。
達頭は表向きは用明天皇の子とされた、とする。
大化改新関連の人物像に関しては、以下のように説明されている。
①孝徳は、高句麗の太陽王で、百済の義慈王であった。高句麗の宝蔵王は義慈王の子である。
②中大兄は、百済の武王(舒明)の子で、百済名を翹岐と言った。
③大海人は、中大兄の義弟で、高句麗の蓋蘇文である。父親は親唐派で、斉明天皇の前夫だった高向玄理である。
④中臣鎌子(鎌足)は、孝徳(=義慈王)の内臣で、百済名を智積という。武王の死後、山背王朝と蘇我氏打倒を画策する義慈王の密命を帯びて来倭し、中大兄を巻き込んだ。
相当に複雑で理解が難しいが、図のような系譜になる(『興亡古代史』)。
また、讖緯説的表現とは、例えば、『日本書紀』の次のような表現である。
(推古紀)
三十四年春一月、桃や李(スモモ)の花が咲いた。
三月には寒くなって霜が降った。
夏五月二十日、馬子大臣が亡くなった。桃原墓(飛鳥石舞台の古墳)に葬った。大臣は蘇我稲目の子で、性格は武略備わり、政務にもすぐれ、仏法をうやまって、飛鳥川の辺りに家居した。その庭の中に小さな池を掘り、池の中に小さな嶋を築いた。それで時の人は嶋大臣といった。
六月、雪が降った。この年は、三月より七月まで長雨が降り、天下は大いに飢えた。老人は草の根を食って道のほとりに死んだ。幼児は乳にすがって母子共に死んだ。また盗賊が大いにはびこり止めようもなかった。
三十五年の春二月、陸奥国で狢(ムジナ)が人に化けて、歌をうたった。
夏五月、蝿がたくさん集まり、十丈ほどの高さになり、大空に浮かんで信濃坂を越えた。その羽音は雷のようであった。東の方上野国に至って、やっと散り失せた。
このような表現に関して、小林氏は次のように解説している。
季節はずれの冬に花が咲くのは、臣下がクーデターを計画したという讖緯説的表現である。時節はずれの霜は、軍が始動し、殺戮が行なわれた場合に降るという。
この場合は、『日本書紀』舒明即位前紀から、馬子が没すると、摩理勢が反乱を起こしたことを示している。
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