天智天皇…①ベンチャー精神
天智天皇は、日本古代史の中でも有数の著名人と言っていいだろう。
しかし、その実像に分かりにくい部分が多いことでも知られる。
蘇我倉山田石川麻呂の冤罪事件において、決して自分に忠実ではないはずの蘇我日向(身刺)の讒言を信じ、自分に忠実だった石川麻呂を処刑してしまった。(08年3月5日の項)
もし、『日本書紀』の記す通りとすれば、まことに愚かというか軽はずみであったと言わざるを得ない。
しかし、青木昌彦氏がいみじくも言及しているように(07年10月4日、5日の項)、天智天皇(中大兄皇子)がベンチャー精神の持ち主だったとすれば、それは「軽はずみ」の精神と表裏の関係だったとも考えられる。
私の住んでいる静岡県の三島市は、「水の都」を標榜している。
富士山に降った雨が、溶岩層を伏流し、それが三島で湧き出ており、「街中がせせらぎ」が謳い文句である。
私が子供の頃は、今よりも遥かに多量の水が、市内の小河川を滔々と流れていたことを記憶しているが、上流域での工場立地が進んだことなどから、随分水量が減ってしまった。
わが家の近くには、「水の都」を象徴する小河川が多い。白瀧公園や源兵衛川や蓮沼川などである。
蓮沼川は、楽寿園の小浜池の湧水が源流であり、楽寿園が小松宮彰仁親王の別邸であったことから、「宮さんの川」の愛称がある。
楽寿園内より園外へ出た辺りには銅像と一体になった噴水や水車やガス灯などが設置され、鯉の群れが泳いでいて、目を楽しませてくれる。
下流には、蓮沼川が境川(伊豆と駿河の境とされる)を渡る千貫樋と呼ばれる水利施設がある。
その蓮沼川にボランティアの人たちの努力によって、漏剋のレプリカが設置されている。
手前に見える乙女像は、堤直美さんの「時の流れ」と題する作品である。
堤さんは、2004年に、最年少(当時54歳)で日展評議員に選出された地元在住の彫刻家である。
漏剋は、『日本書紀』の斉明6(660)年5月の条に、「皇太子、初めて漏剋を造る。民をして時を知らしむ。」とある水時計のことである。
つまり、漏剋によって計られる「時の流れ」を、堤氏の作品が象徴している、という関係といえよう。
漏剋は、漏刻とも書き、容器内の水位を時間の経過とともに変化させることによって時刻を知る装置である。
天智7年7月条にも、「越国、燃土(石炭)と燃水(石油)とを献る」とあるから、天智は新技術に深い関心を持っていたことが窺われる。
つまり、天智天皇は、ベンチャー精神にとって不可欠の「新しいモノ」に対する好奇心が強かったと言えるだろう。
それがある種の「軽はずみ」的な側面に繋がったのであろうか。
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