薬師寺論争…⑭論争の総括
薬師寺金堂本尊の制作年代をめぐって、塼仏が注目されている(大橋一章『法隆寺・薬師寺・東大寺 論争の歩み 』グラフ社(0604))。
塼仏は、唐朝の影響を受けて制作され、7世紀後半に流行したとされる。
大橋氏の上掲書によれば、長谷川誠氏は、紀寺跡から出土した塼仏が「頭部にみられる洗練された明快な表現」をしていて、金堂三尊を思わせるものがあるとする(写真は紀寺出土塼仏(『薬師寺』小学館(8303)。
これに対し、大橋氏は、紀寺出土の塼仏は、均整のとれたプロポーションを見せながらも、全体的に肉付けが貧弱で、金堂三尊に比べると量感に乏しい、とする。
つまり、初唐様式の作品と考えるべきであって、金堂三尊と同列に置くことは無理があり、塼仏と金堂三尊とは様式が異なるものである。
金堂(現時点で、薬師寺本尊の制作年代に関する論争は最終的に決着しているとは言い難いが、大橋一章氏の総括を見てみよう①本薬師寺本尊は、持統11年説が、その頃持統天皇が病気だったために、その病気平癒のための造仏であると考えるのが妥当であり、否定される。
これに対し、持統2年説は、東塔檫銘の「鋪金未遂」が占地未了と解する必要がないことが、発掘調査で裏付けられ、支障がなくなった。
②薬師寺の造営過程は、天武9年の発願後、比較的早い時期に寺地が決定され、工事は天武13年以前に着工された。
しかし、朱鳥元年の無遮大会に薬師寺の名前が見えないから、この時点では無遮大会を行える状態ではなかった。
その13か月後の持統2年正月8日に薬師寺は単独で無遮大会を行っているので、その時点では金堂と本尊は完成していた。
③平城薬師寺の本尊が、移坐か非移坐かについては、文献的にはどちらとも決定し難い。
様式論からすると、圧倒的に天平説が優位である。
④平城薬師寺の本尊が白鳳彫刻よりも進んだ様式を示していることを、新しい中国の様式が流入したため突然に飛躍したとする久野健氏の説に対して、松山氏や大橋氏は否定的である。
そういうことがあり得るとしても、現存する白鳳彫刻の中に、金堂三尊に近い様式のものがないことからして、天平説の優位は揺るがない、とする。
⑤ただし、平城薬師寺の着工時期、金堂本尊の制作開始時期については、大橋氏と松山氏との間に見解の差異がある。
大橋氏は、『薬師寺縁起』の「太上天皇(元明)、養老二年(戊午)、伽藍を平城に移す」の「移す」は、「摸す」の意味で、本薬師寺伽藍を摸し始めたというのは、金堂基壇に柱を建て始めたことを指すとして、造営工事の開始は、養老2年をさかのぼる4、5年、すなわち和銅6、7年頃とする。
これに対し、松山氏は、寺としての機能を移したの意味であって、養老2年には金堂、本尊はできていたと考える方が妥当で、とすれば、平城遷都(和銅3年)頃には着手されていた、とする。
3、4年の違いであるから、誤差の内とも思われるが、そこに拘るのが専門家というものだろう。
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