外界からの刺激の「意味」
私たちを取り巻いている世界は、さまざまななものから成り立っている。
家があり、道があり、店があり、街がある。家の中を見れば、柱があり、畳があり、机があり、TVがある。
これらのものは、もちろん、物理的なモノとして存在している。
さらに、物理的なモノではない、制度だとか、映像だとか、文化だとか、ソフトウェアなどというようなものもある。
そして、私たちは、これらの多様なものが発する刺激を受けて、それに反応して生活し、行動している。
例えば、道を歩いていて、交通信号に出会う。
信号が赤ならば、止まって待ち、青信号ならば進む。
それは信号機の発する色の刺激を受け止め、その色がどういう意味なのかというルールに基づいて行動しているわけである。
われわれの行動は、外界における事象を、刺激として受け止め、それに対する反応と考えることができる。
刺激の受け止め方、刺激に対する反応の仕方は、行動主体によって異なる。
「手を打てば 下女は茶を汲み 鳥は立つ 鯉は寄り来る 猿沢の池」
という歌がある。
猿沢の池の茶屋の床机にもたれて手を打つと、女中さんはお茶を所望されたと思ってお茶を持ってくる。
同じ音を聞いて、鳥は驚いて飛び立ち、鯉はそれを餌をくれる合図だと思って寄って来る。
三者三様の反応である。
それは、手を打つ音が何を意味しているか、受け止める側で異なっているからである。
手を打つという信号が、女中・鳥・鯉では、意味が異なる、ということである。
有名な「パブロフの犬」という実験がある。
パブロフは、1849年生まれのロシア(旧ソ連)の生理学者で、1936年に亡くなった。
飼育係の足音で犬が唾液を分泌している事を発見し、条件反射の実験を思い立った。
犬に餌を与える時、ベルを鳴らしてから餌を与え続けると、ベルを鳴らしただけで唾液を分泌するようになる。
さらにベルを鳴らし続けると、反応は次第に消えていくが、数日後同様の実験を行うと、やはり犬は唾液を分泌する。
餌に対して唾液を分泌するのは本来備わっていた本能的な反応である。
これに対し、ベルの音に反応して唾液を分泌するのは、後天的に作り出された反応である。
つまり、ベルを鳴らすという条件によって生み出される反応であり、条件反射と呼ばれている。
犬の場合には、ベルの音という直接的な刺激に基づく反応であるが、人間の場合には、言語によって形成される反応もある。
つまり、ベルという言葉だけで同じように反応する場合がある。
この場合、ベルという言葉は、信号の信号として作用していることになる。
外界からの、音・色・形・香りなどの直接的な刺激を第一信号とすれば、言語は信号の信号だから第二信号である。
第ニ信号を持つことによって、人間は、他人あるいは歴史的な体験を、自分の体験のように捉えることができるようになった。
それは、第二信号が、記録され、保存され・再生することができるからである。
典型的な第二信号である言語は、文書として記録され、保存され、他人もしくは後世の人が読んで理解することができる。
第二信号系の発達こそが、人間と他の動物との差異を生み出してきた。
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