KY語と万葉語
KY語あるいはKY式日本語というものが結構流行っているらしい。
私も、「KY」程度ならば知っている。
昨年、安部前首相を形容する際に用いられていたからだ。
KY=空気が読めない
確かに、参院選で大敗したにも拘わらず居座り続け、内閣改造を行ったものの、国会で所信表明する直前にその職務を放り出してしまった安部氏の行動は(07年9月13日の項)、多くの大衆の感覚からズレていた(空気が読めない)ことは間違いないだろう。
このKYと同じようなローマ字式の略語がKY語だ。
北原保雄編著『KY式日本語―ローマ字略語がなぜ流行るのか 』大修館書店(0802)という解説書も出版された。
よく使われる例としては、以下のようなものがあるらしい。
JK:女子高生
HK:話変わるけど
MK5:マジキレる5秒前
PK:パンツ食い込む
WH:話題変更
YK:やる気満々
IT:アイス食べたい
SKN:そんなの関係ねえ
MHZ:まさかの匍匐前進
また次のようなものもあるらしい。
GHQ:勤務時間が終わるとすぐに帰宅していく人(Go Home Quickly)
AC:場の空気を乱す人(Air Crusher)
WK:白ける(白:White、蹴る:Kick)
携帯メール等においては、確かに便利だろう。
まあ、多用すると「品格」を落とすとは思うが、「日本語の乱れ」などと目くじらを立てることもないのではないか。
古代から、似たようなことはやっているのである。
間宮厚司『万葉集の歌を推理する』文春新書(0308)は、「ひらかな」も「カタカナ」もなく、漢字しかない時代の『万葉集』における表記の工夫を解読する書である。
『万葉集』は、例えば、次のような万葉仮名と呼ばれる漢字で表記されている。
0020 茜草指武良前野逝標野行野守者不見哉君之袖布流
これを次のように解読しているわけである(08年2月9日の項)。
0020 あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る
上記例は、われわれでも解読できないこともないだろう。
しかし、次のような例は、思わず「ウ~ム」と唸りたくなる感じである。
「憎くあらなくに」:ニクク:ニ八十一:ククは八十一だ
「恋ひ渡りなむ」:ナム:味試:味見をするにはナメる必要がある
「なほやなりなむ」:ム:牛鳴:牛の鳴き声はムと聞こえた
「色に出でば」:イデ:山上復有山:山の字を重ねれば出の字になる
KY語も顔負けの工夫ではないか。
こういう万葉仮名も、平安時代には既に難解なものになって、村上天皇の時代(951年)には、解読のプロジェクト・チームが発足したという。
そして、現在に至るも、訓が振れない歌が残っており、次の額田王の歌の例のように、それが「謎解き」的な好奇心の対象にもなっている。
009 莫囂圓隣之大相七兄爪謁氣吾瀬子之射為兼五可新何本
後半部分は、どうやら「わが背子がい立たせりけむ厳橿がもと」と読むらしいが、前半部分は、専門家でもお手上げなのだという。
KY語もいずれ、どういう意味だったのかが問われる時代が来るのだろうか。
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