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2008年1月11日 (金)

「朱鳥」改元について

『日本書紀』に現れる年号に「朱鳥」がある。
天武紀15年(686)7月のことで、その年の9月9日に天武は亡くなっている。
そして朱鳥には、「阿詝美苔利(アカミトリ)」と和訓されている。普通、年号に和訓は施されない。
『日本書紀』に登場する他の年号である「大化」は、孝徳天皇即位の年であり、「白雉」は大化5年に穴戸(長門)国より献上された白雉に因んで改元されたもので、白雉5年(654年)孝徳が難波宮で没するまで続く。
つまり、「朱鳥」以外の「大化」は孝徳天皇在位の始まりと一致し、「白雉」は孝徳天皇の在位の終わりと一致している。
次の斉明紀と天智紀には年号記事はない。

「古代逸年号」においても「朱鳥」は登場する。
各種の議論があるが、『日本書紀』と同じ686年説が有力である。
「大化」「白雉」も「古代逸年号」に登場するものであるが、『日本書紀』に記された年とは乖離している。
古田武彦氏らは、『日本書紀』に登場する年号は、九州王朝の年号が紛れ込んだ(もしくは盗用した)としている。
それでは、「大化」「白雉」と「朱鳥」の扱いの差異は何によるものだろうか?

古田武彦・澁谷雅男『日本書紀を批判する』新泉社(9410)所収の『「大化・白雉・朱雀」年号の偽入』という古田論文では次のように説明されている。
『日本書紀』における「大化」という年号は、いわゆる「大化の改新」の詔勅群と連結して出現している。
そこでは、「郡制」が前提とされる記述が行われている。
a.其のニに曰く、初めて京師を修め、畿内国司・郡司・関塞……を置き、
b.凡そ郡は四十里を以て大郡とせよ
これらの「郡制」は、木簡の分析によって、701年以降の制度であることが分かった(「郡評論争」)。つまり、「大化の改新」の実態は、701年以降にあったとみることができる。
そして、この701年は、「古代逸年号」の有力史料である『ニ中歴』では、大化7年に当たる(丸山晋司氏案によれば、大長7(700)年が区切り…大宝建元が701年3月21日だから、このとき古代逸年号から大宝に年号が変わったとすれば、古代逸年号の最終年は700年とみることも、701年とみることもいずれも可)。
『日本書紀』の編者らは、「大化の改新」を、天智天皇や鎌足らの時代に遡らせるために、約半世紀繰り上げることにした。

「古田史学の会」の事務局長を務める古賀達也氏は、当然「九州王朝」を認める立場に立つ。
「朱鳥」改元について、『日本書紀』と逸年号史料との年次の一致を、次のように書いている(『古代に真実を求めて』明石書店(0110)所収『朱鳥元年の史料批判』)。
7月20日の改元記事は,前日(19日)の徳政令記事と関連している(以下、すべて宇治谷孟現代語訳)。

十九日、詔して、「諸国の百姓で、貧しいために、稲と資材を貸し与えられた者は、十四年十二月三十日以前の分は、公私を問わずにすべて返済を免除せよ」といわれた。

そして、翌持統元年にも次の記事がある。

秋七月二日、詔して、「およそ負債をもつ者に関して、天武十四年以前のものについては、利息を取ってはならぬ。もしすでに労働で償っている者には、利息分まで労働させてはならぬ」といわれた。

この両年の徳政令は、「九州王朝」から朱鳥元年、2年の年号付き文書で通達されたものであり、近畿天皇家は、それを引き続き認めるのか、認めないのかの判断を迫られたが、結果として公認し、それを『日本書紀』に同年の記事として記載した。
徳政令により負債を免除された勢力の中心は、白村江の戦いに参戦敗北した九州王朝側の豪族たちである。
戦前からの水城や神籠石山城の築城、戦時の徴兵と戦死による労働力不足、戦勝国唐への「戦後賠償」。
そして、疲弊した筑紫にとどめをさしたのは、天武7(678)年12月に起きた「筑紫大地震」だった。

十二月二十七日、臘子鳥が空をわたって、西南より東北に飛んだ。この月、筑紫国で大地震があった。地面が広さ二丈、長さ三千余丈にわたって裂け、どの村でも多数の民家が崩壊した。このとき、岡の上にあったある民家は、地震の夜、岡が崩れて移動した。しかし家は全くこわれず、家人は岡がこわれて移動したことを知らず、夜が明けてからこれに気づいて大いに驚いたという。(臘子鳥:アトリ)

古田武彦氏によれば、この徳政令を発布した「九州王朝」は、「公の官僚」や「私の富者」の支持を失い、その結果として「九州王朝の滅亡」を促した。
『日本書紀』の「朱鳥」改元記事の不自然さを解く1つの考え方ではあると思う。

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