「白鳳」という時代
古代逸年号(九州年号)は、丸山晋司氏によれば(前掲:『古代逸年号の謎』)、「善記」(元年は522年とされる)から、「大長」(元年は692年で9年の700年まで)に至る31個の年号群が知られている。
179年間で31個だから、平均すると<5.8年/1年号>ということになる。
しかし、その1つである「白鳳」は、実に23年という異例ともいうべき長い期間にわたっている。
丸山晋司氏の説くように、白鳳元年が辛酉(661年)だとした場合、白鳳時代というのは、以下の年表に示される時代、ということになる。
わが国の歴史上でも、稀にみる激動の時代、といえるのではなかろうか。
・661年(白鳳元):斉明7、天智即位(称制)
・662年(白鳳02):阿倍比羅夫を百済救援に派遣
・663年(白鳳03):白村江の戦いで、唐・新羅連合軍に大敗
・664年(白鳳04):対馬・壱岐・筑紫に防人と烽を設置し水城を築く
・665年(白鳳05):筑紫大野城を築く
・667年(白鳳07):近江国の大津へ遷都
・668年(白鳳08):高句麗が唐・新羅連合軍に滅ぼされる/中大兄皇子が即位し、第38代天智天皇となる
・670年(白鳳10):全国的に戸籍をつくる(庚午年籍)
・671年(白鳳11):新羅と唐が対立する/第39代弘文天皇(大友皇子)が即位
・672年(白鳳12):天智天皇没/壬申の乱/第40代天武天皇即位/飛鳥浄御原宮に遷る
・676年(白鳳16):新羅が朝鮮半島を統一
・681年(白鳳21):飛鳥浄御原令の編纂を開始する
・683年(白鳳23):軽皇子(第42代文武天皇)生誕
「古代逸年号」において、白鳳に続く年号は、朱雀、大化、大長である。
『日本書紀』では、645年の乙巳の変の年が大化元年とされているが、丸山晋司氏らの研究では、686年が大化元年である。
大化、大長の年号の時代における主要事象を挙げれば、以下の通りである。
・686年(大化元):天武天皇没/第41代持統天皇即位
・689年(大化03):飛鳥浄御原令を発令
・690年(大化04):庚寅年籍をつくる
・694年(大長03):藤原京に遷都
・697年(大長06):持統天皇が、第42代文武天皇に譲位
そして、大長9年の700年で「古代逸年号」は終焉することになり、701年は大宝元年で、以後年号はずっと継続している。
『続日本紀』の大宝元年3月21日の条に、以下のような記載がある(講談社学術文庫版:宇治谷孟現代語訳)。
対馬嶋が金を貢じた。そこで新しく元号をたてて、大宝元年とした。初めて新令(大宝令)に基づいて、官名と位号の制を改正した。
そして、「群評論争」で明らかにされたように、藤原京出土の木簡は、「評」から「群」への転換が、大宝元(701)年を境にして起きていることを示している。
大宝元年は、『続日本紀』が、「文物の儀、是に備れり」と表現している正月の朝賀が行われた年でもある。
「古代逸年号」は実在したのだろうか?
「古代逸年号は、『日本書紀』の記す「大化」「白雉」「朱鳥」の3年号といかなる関係にあるのだろうか?
645年の「乙巳の変」(大化改新)のような大事件があったにも係わらず、「古代逸年号」では「命長」という年号が継続していることはどう考えるべきか?
「古代逸年号」の終焉と大宝建元が連続していることには、どういう意味があるのだろうか?
「新しく元号をたてて」と改元は同じか?
「同じ」とすれば、大宝の前の元号は何か? 「違う」とすれば、『日本書紀』の元号がいずれも改元記事であったこととはどういう関係になるか?
白村江の敗戦という国家の重大事にもかかわらず、「白鳳」の年号が継続しているのは、どう理解すべきか?
政治史における激動と文化史とはどう結びつくのだろうか?
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