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2007年12月16日 (日)

相当対価の算定法

特許法35条は、「職務発明」について、従業者等が、使用者等に特許を受ける権利もしくは特許権を承継させたり、専用実施権を設定する場合には、相当の対価の支払いを受ける権利を有する、としている。
問題は、相当の対価をどう算定するか、であるが、法は、その対価は、使用者等が受ける利益の額や使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない、と規定しているだけで、具体的な算定方法方法を示しているわけではない。
そこで、相当対価をどう算定するか、さまざまな議論が生まれる。

中村修二氏と日亜化学の間で争われた「青色LED」に関する「404号特許」の相当対価はいくらと判断すべきであろうか?
1つの考え方が、新日本監査法人から示された。
監査法人とは、監査証明業務を組織的に行うことを目的として、公認会計士法の定めるところにより、公認会計士が共同して設立した法人である。
上場している会社の会計は、監査法人の監査を受けることが義務付けられており、IHIの有価証券報告書訂正事案などに象徴されるように、監査法人の役割はますます重要なものになっている。
社会的公正の観点から、第三者的立場から価値判断を示すことが期待されており、特許の財産的価値の評価についても、鑑定を求められたわけである。

特許法35の相当の対価に関する規定を式で表現すれば、以下のようになる。
相当の対価=(使用者等が受ける利益)×(発明者の貢献度)
発明者の貢献度=1-(使用者等の貢献度)
発明者は従業者である中村修二氏のことであり、使用者等は日亜化学という企業ということになる。
使用者等が受ける利益はどう算定すべきであろうか。

ある商品から企業が得る利益は、以下のように表現できる。
利益=当該商品の売上額×当該商品の利益率
これを対象とする期間について、計算すれば得られる利益が算定できる。
対象とする期間とは、特許については、該当する特許の有効期間ということになる。

ところで、日亜化学は非公開企業(株式を上場していない)であって、その財務データは企業秘密に属する。
したがって、青色LEDの売上高や利益率などのデータは、日亜化学の外部の人間には入手できない。
この裁判で、中村修二氏側が鑑定を依頼したのが監査法人トーマツ、日亜化学側が鑑定を依頼したのが新日本監査法人であった。
共に、四大監査法人に含まれる大手監査法人であるが、その鑑定の方法にはかなりの差異があった。

トーマツは、日亜側から協力を得られないため、予測部分に重点を置かざるを得なかった。
結果として、トーマツは、2003年~2010年までに売上高等の予測部分に注力したわけである。
もちろん、相当の対価の算定の対象期間には将来のことも含まれるのであり、将来部分を計算対象にすることは当然である。
しかし、青色LEDもそうであるが、ハイテク製品についての将来予測は、ほとんど不可能といってもいいくらいの不確実性を帯びている。

新日本監査法人は、査定の対象を過去の部分だけに限定して算出した。
日亜化学からの協力も得られるので、利益計算等もかなり厳密に行うことができる。
新日本監査法人の鑑定結果は以下の通りであった。

  当期利益累計額          233億円
-製品販売前研究開発コスト     53億円
-研究開発用資産未償却残高    73億円
-自己資本コスト           123億円
      計              -15億円

この計算の意味することは何か?
中村修二氏は、「404号特許」の発明によって、会社(日亜化学)に、15億円の損失を生じさせた、ということである。
しかし、日亜化学の発展ぶり等を勘案すれば、この鑑定結果はオカシイのではないか、と思うのが常識というものだろう。

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