血脈…①江国滋-香織
小説家・詩人・歌人・俳人・エッセイストなど、幅広い文芸のジャンルで活躍している江国香織さんは、江国滋さんの長女である。
以下のような多彩な受賞暦を持っており、今では、かの吉本隆明が吉本ばななや春野宵子の父、と紹介されることがあるように、「江国滋は江国香織の父」と紹介されることの方が多いのかも知れない。
・1987年 『草之丞の話』で、はないちもんめ小さな童話賞大賞。
・1989年 『409ラドクリフ』で第1回フェミナ賞。
・1991年 『こうばしい日々』で第38回産経児童出版文化賞。
・1992年 『こうばしい日々』で第7回坪田譲治文学賞。
・1992年 『きらきらひかる』で第2回紫式部文学賞。
・1999年 『ぼくの小鳥ちゃん』で第21回路傍の石文学賞。
・2001年 『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で第15回山本周五郎賞。
・2004年 『号泣する準備はできていた』で第130回直木賞。
・2007年 『がらくた』で島清恋愛文学賞。
『江國 香織とっておき作品集』マガジンハウス(0108)に、江国滋さんの『香織の記録』という育児日誌が載っている。
香織さんの誕生前日から満6歳までの記録であり、父親が小さな娘に注ぐ愛情が素直に伝わってきて微笑ましい。
香織さんは、1964(昭和39)年3月21日に生まれた。
「記録」は、<その前日>、つまり3月20日から記されている。
(ママが)午前十一時ごろ聖母病院(三三七号室)へ入院。
この病院は一切がアメリカ式なのできわめて清潔、その代わり父親はすぐ追い返される。
パパはそのまま仕事に出掛けて、午後七時帰宅。落ち着かない。ウィスキーをちびちび飲みながら病院からの電話を待つ。本を読もうとするのだが、活字を追うだけで頭に入らない。
午前二時、枕元に電話機を置いて床に入る。全然眠れない。ウィスキーをのみながら、とうとう夜を徹す。山之内製薬の精神安定剤「バランス」カプセルを一ヶ飲んで無理矢理寝る。
最初の子供の誕生を待つ父親の期待と心配が、実に率直に記されている。
結局20日には生まれず、21日が<その日>になって、「午前九時十分頃、枕もとの電話がけたたましく鳴る。取る手ももどかしく受話器にとびつく。『聖母病院でございます。けさ八時五十六分、お生まれになりました。……』」ということになる。
新生児室のガラス越しに、白衣の看護婦さんが香織を抱いて見せてくれた。
小さな、色の白い、きれいな赤ちゃんだった。目をつむり、小さな口をきゅっと結び、いかにも利巧そうないい顔をしている。もみじのような可愛い手、ちゃんと指も五本ついている。よかった!
香織さんが生まれた年の年賀状が載っている。
早くも「親バカ」ぶりが伺えるが、まあ、殆んどの父親が似たようなものだろう。
父親は、出産そのものには主体的に係われない。その分だけ、精神的には多く係わろうとしているとも言える。
そして、このような愛情に溢れて育てられれば、父の才能が娘に伝わることにも余り違和感はない。
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コメント
私も最近ブログ始めました。よろしくお願いします。
投稿: ずーさん | 2007年12月 7日 (金) 23時08分