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2007年12月22日 (土)

漢字と図形

漢字は象形文字として生成したから、漢字に図形性が備わっているのは当然であろう。
図形の特性は、全体を一目で理解できるということである。パッと見てパッと分かる。それが図形である。
プレゼンテーションなどにおいて、図解の重要性がいわれることが多いが、相手に伝達するうえで、図で示すことが効果的であるからである。

しかし、図解することは、相手への伝達において有効なだけではない。
自分自身の理解と思考を深化させることにも役に立つ。
というよりも、自分自身が理解と思考を深化できることが、相手の理解を容易にすることに繋がるのだろう。
ビジネスの場では、「見える化」という妙な日本語が主張されている。
企業には(だけではないが)、実にさまざまな問題が日々生起している。
「見える化」とは、状況を常に見えるようにしておくことで、問題が発生してもすぐに対処できる環境を実現すると共に、問題が発生しにくい環境を実現するための取り組みのことである。
ローランド・ベルガーというコンサルティング・ファームの遠藤功さんが、『見える化-強い企業をつくる「見える」仕組み』東洋経済新報社(0510)を出版してからブームになった。

その漢字の欠点だと考えられていたのが、タイプライターがないことであった。
もちろん、漢字の活字を配列した邦文タイプライターは考案されていたが、それは特殊な技能に属する機械であった。
誰もが操作できる、あるいはブラインドタッチが可能な漢字のタイプライターは、実現不可能だと考えられていた。
システム工学の権威者として知られた渡辺茂東京大学教授は、1976年に刊行された『漢字と図形』(NHKブックス)の中で、「(英文タイプに匹敵する和文タイプは)できる道理がないのである」と言い切っている。

その隘路をかな漢字変換によって打開したのが、元東芝社員の天野真家氏らのグループであった。
日本人が使用するすべての(多分)パソコンに、かな漢字変換機能がバンドルされている現状を見れば、その発明の社会的影響は、青色LEDに比べても遜色ないのかも知れない。
天野氏が提起している職務発明の対価は、2年度分として2億6000万円とのことであるが、私は、総額で10億円程度までの金額ならば、職務発明の相当対価として認めるべきではないかと思う。

もっとも、天野氏も現在は湘南工科大学教授という立場にあり、そのポストに就くについては東芝時代の発明も大いに与っているのだろうから、その辺りをどう考えるかという問題はある。
しかし、私は特許法35条の規定がある限り、処遇とは別に相当対価は支払われるべきだと思う。
かな漢字変換機能は、日本の漢字文化に新しいフェーズをもたらした。

図形といえば、マンガやアニメが、日本を代表するサブカルチャーとして、世界の若者を魅了しているらしい。
昨年の4月、イタリアの大手紙「ラ・レパプリカ」が発行している雑誌「XL」に、Julie(ジュリ)さんの写真集『SAMURAI GIRL』が4ページにわたって取り上げられた。
マンガやアニメの登場人物のコスチュームを身に纏った写真だという。

ジュリさんは、マンガ家を志望して芸術系の大学に進学したものの、思っていたような勉強ができず、中退してフリーカメラマンの生活を送っていた。
作品がイタリア人編集者の目にとまり、イタリアで日本の写真集を作ってみないか、と誘われた。
「日本らしさ」というテーマを与えられ、イタリアに移住してみたところ、日本のマンガやアニメの浸透ぶりに驚いた。

京都精華大学には、マンガ学部がある。
学部長の牧野圭一さんは、日本のマンガが世界の若者を魅了する根拠を、「漢字」と「八百万の神々」という日本固有の文化の帰結だと説明する(産経新聞071209)。
「重」という漢字には、「かさねる」「おもい」「え」「ジュウ」「チョウ」などの読み方があるが、日本人はそれを文脈から瞬時に判別する。
それは、1コマのマンガから、パッと意味を読み取り、自由にイメージをふくらませることに通じる、という。

また、森羅万象に神が宿り、それを自由に造型したり、擬人化したりする風土が、ストーリーやキャラクターの自由な表現を可能にしているという。
偶像崇拝を禁止する一神教では、そういう文化は生まれにくい。
八百万の神々を崇める精神は、外来の文化を許容し、受容する。
それが多様なストーリーが生まれる素地になっている、という説である。

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