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2007年12月19日 (水)

西村肇さんの考え方

青色LEDの「404号特許」をめぐる裁判で、一審の判決と控訴審の和解勧告との間に大きなギャップがあったことは、特許の経済的価値判断の難しさを示すものといえる。
控訴側と被控訴側の双方が和解に応じたため、相当対価の司法判断は確定しなかったわけであるが、組織内における貢献度評価の問題は、職務発明の問題に限らず、成果主義的評価全般の問題である。
例えば、野球などの団体スポーツにおける個々の選手の貢献度をどう評価すべきなのであろうか?
投手と野手、あるいは守備と攻撃など、異なる立場での成績を、金銭という一元的な評価に還元する客観的な方法はありえるのだろうか?

日本の企業は、多くの場合、ゲマインシャフト(共同体的人間関係)として運営されてきた。いわゆる日本的経営である。
成果主義を標榜する多くの試みが失敗しているのは、ゲマインシャフトの論理で動いている現実に、ゲゼルシャフト(ルールと契約関係による人間関係)の建前を持ち込もうとしたことにあるのではないか、と思う。
私自身は、ゲマインシャフトを抜け切れない人間であるが、おそらくは、日本の企業もゲゼルシャフト的運営に移行していかざるを得ないのだろう。

組織における貢献度評価の問題に関して、論理的なアプローチを試みた稀有の例が、西村肇さんの『人の値段 考え方と計算』講談社(0410)である。
西村肇さんの略歴とプロフィールは以下の通りである

1933年  東京生まれ、満州育ち
1957年  東京大学機械工学科卒業
1966年  東京大学工学部化学工学科助教授
1980年  東京大学工学部教授
1993年  東京大学名誉教授
        研究工房シンセシス設立、主宰
http://www.nhk.or.jp/bsdebate/0502/guest.html

西村さんは、貢献度評価の方法論を次のように示す。
2_2
つまり、あらかじめ貢献度として評価すべき要素を洗い出し、その重み付けを行っておく。
その上で、組織の中の個人が果たした役割を定量化する。

青色LEDの場合、要素は、青色LEDの開発に係わる発明群が、実際の事業化に関してどのような重みを持っているか、である。
日亜化学の場合、この裁判の辞典で、関連する特許は800件以上出願され、202件が登録されていた。
中村修二氏の業績評価に否定的なテーミス編集部編『青色発光ダイオード―日亜化学と若い技術者たちが創った』テーミス(0403)では、「404号特許」の価値を、単純に1/800もしくは1/212としているが、それでは重み付けをしたことにはならない。
西村肇さんは、出願あるいは登録されている特許の中でも、基本特許は限定されているとし、「404号特許」の他に3件を抽出し、「404号特許」と他の3件が50%ずつの重みを持つとした。
その上で、「404号特許」に関しては中村氏が独力で開発し(貢献度100%)、他の3件については中村氏の貢献度は、4/8もしくは5/8と見積もった。
上記とすれば、中村氏の全体としての貢献度は以下のようになる。
<1/2+4/8×1/2=12/16=75%>or<1/2+5/8×1/2=13/16=81%>

詳細な計算の紹介は省くが、西村さんは、青色LEDの事業化によって日亜化学の得た利益の275億円から自己資本コスト46億円と研究開発投資危険負担コスト60億円を差し引いて、配分すべき利益の総額を169億円と算出した。
これを、発明者、事業化リーダー、オーナー経営者で配分すべきであるとし、その比率を2:1:1として、中村氏の受け取るべき対価を以下のように算出した。
169×2/4×0.8≒70(億円)

可能な限り精緻な議論をしたところで、随所で大胆な仮定を置かざるを得ないわけである。
西村さんは、もともと有効数字1桁の議論だと言っているのだから、問題は、70億円を是とみるか、60億円以下とすべきと考えるか、80億円以上とすべきと考えるか、ということになる。
金額の是非はともかくとして、貢献度評価の問題に関して、定量的なアプローチを公表した西村さんの試みは評価すべきであろう。

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