『俳句とあそぶ法』…⑥切れ字
俳句には、切れ字というものがある。
「や」「かな」「けり」などの語で、強調、詠嘆、疑問、完了、余韻、視覚的効果、聴覚的効果などを表現するものである。
霜柱俳句は切字響きけり (波郷)
と詠まれているように、切れ字は、一句のすがた、かたち、調子などを整える上で大きな役割を果たす。
藤原正彦さんの『国家の品格 』新潮新書(0511)がベストセラーになって以来、『ハケンの品格』などというTVドラマがヒットするなど、何かと「品格」が問われることが多い。
切れ字は、「俳句の品格」を決める重要なファクターである。
切れ字も季語と同じように、一句の中に2つあってはならない、という禁忌がある。
『俳句とあそぶ法』の「7 切れ字は宝」は、この禁忌に関して解説した章である。
しかし、禁忌を破っていても、名句といわれる句はある。
降る雪や明治は遠くなりにけり (草田男)
人口に膾炙した句であって、江国さんも「昭和の絶唱ともいうべき傑作」と評している。
この句が作られたのは、1931(昭和6)年であったが、既に平成も19年であるから、私たちの世代は、昭和も遠くなってしまったという感懐を抱かざるを得ない。
映画の「ALWAYS 三丁目の夕日」がヒットし、続編も好調のようであるが、まさに昭和にノスタルジーを感じる人が多数いるということだろう。
この禁忌破りの名句の作者である中村草田男自身、次のように解説している。
「や」か「かな」かの切字が添っているの、それぞれの強いリズムによってその部分が、一句に含まれた詩の世界の気分、情趣の中心点、統一点になるわけです。一句に中心点、統一点が一個だけあることは結構ですが、もし二個あるとどうなるでしょう。--その一句は、二つの部分に分裂し、割れてしまって、一句としての気分、情趣はかえてまとまりのないバラバラなものになってしまわざるを得ません。
しかし、「降る雪や……」の句が、草田男のこの解説を裏切っている。
降る雪や、の「や」で感じさせる余情と、遠くなりにけり、の「けり」がもたらす詠嘆の気分が、相乗的な効果をもたらしている。
まさに「品格」の高い句ということができる。
江国さんは、名句と禁忌の関係について、次の2通りの考え方を示す。
(1)鉄則に違背しているという事実は事実として、名句であることに変わりはない。
(2)名句であるという事実は事実として、鉄則に違背していることに変わりはない。
アマチュアの「遊び」はルールに厳密でなければならない、というのが江国さんの基本的なスタンスだから、(2)であるべきだ、ということになる。
だから、「や・かな」とか「や・けり」を併用した句ができてしまったら、無理をしても(句の持ち味をそこなってでも)どちらか一方の切れ字を変えることを自らに義務づけている、としている。
まあ、ルールとして考えるならば、それくらい徹底した方が分かり易い。
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