控訴審の判断
青色LEDに関する「404号特許」をめぐる中村修二氏と日亜化学の争いにおいて、東京地裁は、2004年1月30日、「404号特許」の相当対価を604億円と算定し、中村氏が請求していた200億円を支払うよう判決を下した。
これに対し、日亜化学は、判決を不服として即日控訴した。
東京高裁は、2004年12月24日、この訴訟に対して和解勧告を行った。
東京高裁は、和解に際して、「和解についての考え」を示した。
その中で、「被控訴人(中村氏)のすべての職務発明に関し、特許を受ける権利の譲渡の相当対価について、和解による全面的な解決を図ることが、当事者双方にとって極めて重要な意義のあることであると考える」とした。
東京高裁のコメントは、中村氏側が、「404号特許」の次に、他の特許についても訴えるとしていたことに対し、将来の紛争も含めた全面的な和解をするための勧告をするのだ、ということを示したものである。
つまり、中村氏と日亜化学との訴訟を完全に終結させることを意図したものであり、その限りでは、産業の健全な発展の見地からして好ましい判断だといえる。
しかし、その和解勧告の内容は果たして妥当なものなのだろうか。
東京高裁は、青色LEDなどの発明には、「404号特許」以外に、いくつかの重要なあるいは有力な特許が存在することを認め、他の特許を評価しなかった一審の判断と大きく異なる判断を示した。
それらの詳細は余りに技術的になるので割愛するとして、これらの特許も含め、中村氏が発明者として名前を残す全特許に関してまとめて相当対価を計算した。
その結果は、全特許に対して、相当対価は6億857万8801円と算出した。
ここでも、円単位の計算をするところが、厳密なようではあるが、事実上意味のないことはいうまでもない。
計算上の変数は、実施料率と貢献度である。
東京高裁の和解勧告では、実施料率を1994~1996年は10%、1997~2002年は7%とした。
一審では1994~2010年にわたり20%としていたのと大きく異なる判断である。
また、全特許に対する中村氏の貢献度は、1994~2002年の間で5%と判断した。
一審では、日亜化学の得た利益に対する中村氏の貢献度は、50%を下回らないとされていたのだから、1/10の評価ということになる。
この評価基準を基に「404号特許」だけの相当対価を算出すると、最大で1010万円というのが、日亜化学側の弁護士の意見であった。
とすると、
1010:6040000≒1:6000
ということになり、一審と控訴審で、「404号特許」の価値は6000倍の開きがあると判断されたことになる。
日亜化学は、一審での結果を踏まえ、裁判官に分かり易い説明を心掛けたという。
また、一審については、法律の専門家、当該分野の研究者・メーカー等から、特許の効力の判断に異論が提出されていた。
また、日亜化学の他の研究者や技術者の貢献も指摘されていた。
和解案は、一審の評価を6000分の1に減じたとみることもできるし、金額でみれば、604億円が6億円になったのだから、100分の1に減額された、とみることもできる。
しかし、裁判開始前は、中村氏には2万円しか支払われていなかったといわれており、その点を勘案すれば、結果的に損害遅延金を含め、8億円超になるまでになったのだから、4万倍の評価を得たいうこともいえる。
いずれにしろ、青色LEDのように大きな経済効果をもたらした職務発明をどう評価すべきか、難しい課題であることは間違いない。
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