青色LEDの場合
職務発明の対価の問題で大きな話題になったのは、青色発光ダイオードの発明に関してである。
発明者の中村修二氏と日亜化学の間で争われていた案件に関し、2004年1月、東京地裁が、発明対価の一部として200億円を支払え、という判決を出した。
この巨額の判決は、各方面に大きな衝撃を与えた。
それは従来の常識的と思われた金額を遙かに越えた額だった。
控訴審では、和解金額が6億円に減額され、遅延損害金を含めて8億4000万円を支払うことで和解が成立した。
道路標識などにどんどん採用されているように、青色発光ダイオードの発明は大きな社会的意義と経済効果をもたらすものであった。
人間が光として見ることができる可視光は、赤・緑・青の三原色から構成されている。
これらの組み合わせで、どのような色でも表示できる。
赤と緑の発光ダイオードは既に商品化されていたが、青色発光ダイオードの商品化が難しかった。
中村修二氏らの日亜化学の研究グループが、この青色発光ダイオードの商品化に成功したことにより、図に示すように、三原色の混合比率を変えることにより、さまざまな色彩を表現することが可能となった。
その発明に対して、相応の対価が支払われるべきであることは当然である。
しかし、相応の対価をどう算定するのか、考え方に幅が出てくることは避けられない。
発明者からすれば、発明者のオリジナリティがあればこその発明である。
貢献度を評価するにしても、そのオリジナリティを評価しなければ意味がない、と考えるであろう。
一方、会社からすれば、成功するかどうか分からない研究のリスクを負っているのは会社側である。
社員は、職務の遂行に関しては、別途定められた報酬を得ているのであって、社員によって行われた発明に対して、今後の職務の励みになるような報奨金は出すにしても、それはご褒美の一種であって、自ずから金額は制約されたものであるべきであろう。
ところで、特許法35条の規定は、人事の処遇に関するものではなく、金銭に係わる規定である。
日本的な企業風土の中では金銭的な請求は表に出しにくいのが実態であるが、発明者は対価の支払いを受ける権利があるとされているのであり、それは金銭で支払われるものである。
しかし、実際にその対価を算定しようとすると、大手監査法人などの専門家の間でも、大きな差異が生じる。
特許の財産的価値は、当該特許を利用できる期間において、当該特許を使った商品を販売して得られるであろう利益と、当該特許を他社等に利用させたりすることによって得られる利益の和である。
しかし、ある商品の販売において、当該特許の貢献度をどう評価するか。
考え方としては、当該特許のある場合とない場合の差ということになろうが、それは架空の計算をすることと同じだろう。
研究者と企業の貢献度の評価も難しい。
研究者の貢献度は、アイデアや着想に係わるものであり、企業の貢献とは、研究設備や組織体制に係わるものであって、次元が違うからである。
したがって、厳密な査定などはもともと不可能なのであって、大胆に割り切るしかない。
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