「404号特許」
職務発明という一種の業務上の成果をめぐって、中村修二氏と日亜化学の間で争われた裁判の論点は、次の2点に集約できるだろう。
1.発明によりもたらされた利益の算定
2.利益に対する中村修二氏の貢献度評価
われわれの仕事はほとんどの場合、組織によって行われるものであるから、この論点は、さまざまな場合に起きてくるものである。
例えば、プロ野球選手の年俸改定交渉などは、典型的なケースということになる。
職務発明とは、組織に属する人間(特許法でいう「従業者等」)による発明で、以下の範囲のものを指す。
つまり、職務の範囲に入り、かつ使用者等の業務の範囲に入る発明である。
職務の範囲に入らず、使用者等の業務の範囲に入らない従業者等の発明は自由発明であって、権利はその従業者等の個人に帰属する。
問題は、使用者等の業務の範囲であって、従業者等の職務の範囲に入らない発明、業務発明の場合であり、権利の帰属については、説が分かれている。
雇用契約上の原則からいえば、労働の成果は、職務の成果は、企業等の使用者に帰属すると考えられる。
特許法35条が、職務発明に対して、発明者に対価を支払うべきだと規定しているのは、技術立国を目指す国の方針を反映したものであって、この原則からすれば、例外的な考え方ともいえる。
多くの企業が、従来、わずかの報奨金を以て発明者に報いてきたのは、雇用契約という側面からいえば当然であったともいえる。
青色LEDの場合は、それによって企業(日亜化学)が得た利益が膨大なものであったが、原則的な考え方からすれば、それは企業に属するものであって、特許法35条という特殊な規定がなければ、技術者個人が対価を得るのが当然だとは考えられない。
ところで、中村修二氏と日亜化学との間で問題になった発明は、「404号特許」と呼ばれるものであった。
特許として認められた発明は、個別に特許番号が付されて識別される。中村修二氏を発明者とし(特許公報では単名であることに注意)、日亜化学を特許権者とする「半導体結晶膜の成長方法」という名称の特許番号は、第2028404号であって、その末尾の「404」に由来する。
それは、不活性ガスにより原料ガスの流れを制御するというもので、青色LEDの製造にとって基本特許の1つである。
しかし、青色LEDの製造は、「404号特許」だけによって行われるものではなく、数多くの特許やノウハウの集合があって可能となったものである。
貢献度評価の重要な論点が、発明により得られた利益を算定する場合、当該特許(この場合は「404号特許」)の果たしたウェイトをどう評価するか、ということである。
東京地裁の一審判決では、「404号特許」のみが論点になり、この特許が全成果を規定すると判断された。
これに対し、控訴審では、青色LEDに係わる全特許・全ノウハウが勘案された。
つまり、「404号特許」の果たしている役割の評価の差異が、特許の財産的価値の大きな違いの要因となった。
事業化に際しては、今までの隘路を打開するキーとなるアイデア・考案が存在する。
青色LEDの場合はどうだったのか?
日亜化学側は、「404号特許」は実際には使用されていない、と主張した。
実際の製造工程は企業秘密に属するものであるから、推測の域を出ないが、やはり「404号特許」は基本特許であって、実際に使用されているか否かは別としても、その貢献を認めるべきであると考える。
問題は、基本特許性を「404号特許」だけに限定していいかどうかである。
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