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2007年11月26日 (月)

『知的生産の技術』…④WIKI

私はメーカーの技術者を体験した後、考えるところがあってリサーチャーに転じた。
リサーチャーというのは、シンクタンクの研究員のことで、与えられた(もしくは自主的に設定した)課題について調べ上げ、それを報告書として取りまとめることを業務とするものである。
だから、モノの技術者から情報の技術者への転職ということができる。
モノの技術者の場合には、テクニカル・スキルの深化が求められたのだが、情報の技術者の場合は、テクニカル・スキルをどう考えたらいいのだろうか? 
自分たちに必要なスキルは何なのかを議論したあげく、「思考技術」という言葉に行き着いた。
つまり、情報の技術者の場合、テクニカル・スキル≒コンセプチュアル・スキルということになる。

しかし、情報の技術というのは、仕様(スペック)を規定するのが難しく、品質の評価基準も必ずしも明確ではない(品質の客観的評価については、ある程度の共通理解が成立するとは思うが)。
ということは、往々にして、作業にキリがない、ということになりがちである。
納品前などに徹夜になってしまうことは、当たり前のような雰囲気だった。

先日、久しぶりに時間の制約のない(つまり状況によっては徹夜も辞さない)ミーティングに参加する機会があった。
大学で研究されてきた技術的なシーズを、事業として生かす方策を考えるための、何社かが寄り集まったアドホックな組織である。
そこでの共同作業を、方向性が明確になるまで煮詰めてみよう、という趣旨だった。
その時に、某教授の議論の整理の仕方に、「知的生産の技術」の現在の姿を見た思いがしたのだった。

それは、議論をしながら、パソコンで議論の内容を粗整理し、それをプロジェクタで投射しながら、さらに議論を重ねていく、というものである。
会議の参加者は、それぞれの考えを発表するのであるが、投射している整理案に加除修正を加え、リファインしながら、議論を収束させていく。
参加している企業は、業種・業態も規模もさまざまで、それぞれ得意分野が異なっている。

昔から、「3人寄れば文殊の知恵」ということが言われてきた。
特別頭の良い者でなくても、3人集まって相談すれば良い知恵が浮かんでくる、というような意味である。
ネット上の、利用者参加型の百科事典「WIKIPEDIA」などは、まさに「3人寄れば……」の実践ではないかと思う。
「WIKIPEDIA」は「WIKI」+「Encycropedia」の造語であるが、「WIKI」は、ハワイ語の「Wikiwiki」が語源で、「速い」「急ぐ」「形式張らない」といった意味があるらしい。
あるいは、「What I Know Is(私の知っていること)」の略だとも言われる。

大勢の人が係わる作業では、責任の所在が不明確になるような気もするが、どうやら大勢の目に晒されることが、客観的な評価を担保しているらしい。
悪貨が良貨に駆逐されるというネット上の法則が働くわけである。
企画などの作業で行われるブレーンストーミングでは、他人の意見にどんどん付け加えていくことが奨励されている。
新しいアイデアというのは、既存のアイデアの新しい組合せである場合が多い。
その新しい組合せは、もともと思考パターンの異なる他人の方が確率が高いということであろう。
また、事業計画を検討している場合、そのつもりではなくても、都合のいい仮定を設けていたりすることに陥る危険性がある。
「WIKI」は、独善的な仮定に陥る危険性を軽減するのにも有効だろう。

思考は、何も材料がないところでは展開しにくい。
材料になるものはさまざまであるが、視覚的な刺激の比重が圧倒的に高いといわれている。
図や文字で表現してみることによって、自分が「何を分かっていないか」を知ることができる。
「自分が知らないということを知る」ことが、さらなる探究への牽引力になる。
作文の効用はそういうところにもあるのではなかろうか。
プロジェクタで投射することは、思考の材料を共有しようということである。
「WIKI」あるいはオープン化は、これからの「知的生産の技術」のキー・ファクターだと思う。

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