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2007年11月12日 (月)

三嶋暦と南部絵暦

仲秋の名月の観月会イベント(9月24日の項)を楽しんだ「三嶋暦師の館」で、講演会と和綴じ暦制作の実習講座があった。
和綴じ暦の制作は、天保15年の三嶋暦を和綴じ製本するもので、保存会の方々に、印刷済みの用紙、こより、穴開け用の道具、木槌、紙用ボンドなどワンセットで用意しておいていただいた。
講師の方の説明を聞きながら、紙を揃え、穴を開け、こよりを通して綴じるのであるが、簡単なようで結構難しい。

講演会の講師は、「暦の会」の会長で、女子美大名誉教授の岡田芳郎さんである。
歴史を知るためには、いわゆる旧暦の知識が不可欠であるが、太陽暦に慣れてしまっている現代人にとっては、なかなか難しいことが多い。
干支などは比較的馴染みがあるが、陰陽五行説になるとほとんどの人が知らないだろう。
五行説は、自然界の成り立ちを木(もく)、火(か)、土(ど)、金(こん)、水(すい)の5つの要素で説明するものである。
私もそういう考え方があることは知っていた。例えばユニークな古代史家の小林惠子さんの説などは、五行説が縦横無尽ともいうべき形で活用されており、現代人の感覚だとほとんどオカルト的のように感じられる。
あるいは、暦の五行を表示している部分を現代人の感覚で曜日だと思うと、日曜日と月曜日が無い、などということになりかねない。

また、二十四節季は、1年を24等分するので、1節季が15日相当になり、月表示よりも精細な季節感を表現することができ、季語とも密接に関連している。
二十八宿、すなわち月が地球を一周するあいだに通過する28の星座は、高松塚古墳に描かれていることで有名であるが、太陰暦の知識がないことには、チンプンカンプンである。
太陰暦は、現在でもイスラム諸国で用いられているという。

岡田先生の話は、「三嶋暦と南部絵暦」という演題で、先ず暦の歴史の中での三嶋暦の位置づけを解説していただいた。
三嶋暦は、印刷(木版)の暦としては最も古い物であるが、同時に印刷の仕上がりがきれいで、印刷暦の代名詞になっていたということである。
ベストセラー小説の加藤廣『信長の棺 』日本経済新聞社(0505)には、暦のことが書かれている。
その暦のことに関して岡田先生が講師になった講演会に、著者の加藤廣さんが出席したらしい。実は、岡田先生と加藤さんは同級生だったのであるが、岡田先生は、その時まで同姓同名の別人だと思っていたという。
というようなエピソードを織り交ぜながら、分かり易く解説していただいた。

三嶋暦の次に、東北地方の山間部にある田山村(現八幡平市)や盛岡市に伝わる絵暦について解説していただいた。
その絵暦の実物(天保15年版)が、三嶋暦師の河合家に保存されているという。
どういう経緯で河合家にもたらされたのか不思議な気もするが、専門家間のコミュニケーションは意外に密度が濃かったということであろうか。
絵暦とは、文字の読めない(文盲の)人たちのために作られた暦で、「めくら暦」と呼ばれている。
「めくら」という言葉が差別用語ではないか、ということで放送使用禁止用語になっているらしいが、他の言葉で3_2言い換えるような姑息なことをするよりも、文盲の現実を見据えて、絵文字のような対応をすることの方が親切だし、意味があるのではないかと思う。
絵暦は、絵を描いた木の判を1つ1つ押して印刷して制作するという。

その絵文字がなかなかユニークである。
絵文字といえば、ケータイ・メール等で現代でも活躍しているが、まるでナゾナゾのような面がある。
岡田先生の講演が終わった後で、保存会の西川さんが、個別の絵の読解について解説してくれた。
例えば、芥子の図柄に濁点を付けると(右図)、「ゲシ=夏至」ということになる。
あるいは、禿げ頭の男が描かれていて(左図)、「禿が生じる」というこ6_2とで「ハンゲショウ=半夏生」だという。
岡田先生の補足説明によると、盛岡弁で「禿」の発音は「ハンゲ」に近いそうだ。
なお、天保15(1844)年は、最後の太陰暦(天保暦)が実施された暦史の上で重要な年とのことである。
未知のことばかりのイベントだった。

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