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2007年10月 5日 (金)

ベンチャー精神と軽はずみ

ベンチャー精神とは何かといえば、ベンチャービジネスを起こし、マネジメントしていくために必要な心の構えといったところだろうか。
ベンチャービジネスは和製英語だといわれているが、一般に、新技術や高度な知識を軸に、大企業では実施しにくい創造的・革新的な経営を展開する中小企業を指す言葉として使われている。
もっとも、新技術や高度な知識というのは相対的なものだから、ベンチャービジネスを厳密に定義することは難しいだろう。

私も、最初は一部上場の大企業に勤務していたのだが、思うところがあってベンチャー企業に転職した者の一人である。
いま振り替えってみて、それが良かったことなのかどうか分からない。もちろん、今さら時間を逆回転させられるわけでもないので、そもそも振り返ってみたとしてもどうしようもないのではあるが。
体験を踏まえていえば、大企業とベンチャー企業との根本的な差異は、安定性・安全性の違いにあると思う。
大企業は信用も高く、財務基盤も固まっていることが多いので、一般には大きな安定性・安全性を持っている。
それに対し、新創業のベンチャー企業は、信用もなく、財務的にも脆弱である場合がほとんどである。

もちろん、年齢も会社における立場も異なっているから単純な比較はできないが、ベンチャー企業ではとても他人に話せないような心的なプレッシャーを感じるような体験をした。
企業には、社員、取引先などの利害関係者がいる。そしてそれぞれに家族がいる。
ベンチャー企業と大企業とを比較すると、企業とそれぞれの利害関係者の関係の深さは、ベンチャー企業の方が大きいといえるだろう。分母(関係者の数)の大きさの違いである。
だから、苦境に陥ったときの心理的な負担は、大企業に比べるとベンチャー企業の方が遥かに大きくなる。そして、苦境に陥る可能性も当然ベンチャー企業の方が高いだろう。

とすれば、大企業を離脱して、ベンチャー企業を創業することにはどのような意味があるのだろうか。
一般的には、大企業の方が人的にも、財務的にも、ネットワーク的にも恵まれているだろう。とすれば、事業を成功させる確率は、大企業の方が高いはずである。
しかも、大企業には成功体験の蓄積がある。大企業といえども最初から大企業であるわけではないので、大企業に発展する過程で、多くの成功事例を積み重ねているはずである。その成功事例を参照すれば、失敗を予防できるのではないか。
しかし、逆説的なことではあるが、その成功体験が、風土となり文化となって、それと異なるやり方を封じることにもなる。
そこにベンチャー企業の存在理由が生まれてくる。

ベンチャービジネスについて考える場合、最も重要な概念は、J.A.シュンペーターによって提示された「創造的破壊」という概念だろう。
多くの場合、起業の契機は、イノベーション(新財貨、新生産方法ないし新輸送方法、新市場、新販路、新組織)である。
イノベーションは、技術革新と訳されることが多いが、純粋に技術的なジャンルだけに留まらない。要は、新しい挑戦的な試みのことである。
そうして創業した企業の最も危険な時期は、おそらく創業した直後ということになるだろう。

事業が継続できていれば、次第に取引先の数も増え、信用も増して、資金調達力も大きくなってくる。
そこに至ることができるかどうかが問題で、その前に立ちゆかなくケースが非常に多い。
よく、「銀行は晴れていれば傘を貸そうとし、雨が降り始めると傘を取り返してしまう」といわれる。
もちろん、銀行側からすれば、大切な預金の運用だから、安全第一ということだろうが、それではベンチャービジネスは生き残ることが難しい。
特に、日本の社会では、創業後の失敗に関して、敗者復活的な風土がないので、新創業に踏み切れないということも多いと思われる。
ベンチャービジネスに失敗はつきものでたある。失敗した人間が再チャレンジできる機会があるか否かは、経済活動の活力の根本にかかわる問題ではないだろうか。

ベンチャービジネスは、多くの場合、伝統ある大企業から離脱することを意味している。
つまり、安全性・安定性よりも、イノベーションの機会を重視するという姿勢である。
それは未知へのチャレンジであり、保守的な精神とは相容れない。
そこにはある種の「軽はずみ」が不可欠である。
石橋を叩くばかりでは、川の向こう側には渡れないのだ。

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