有名句の評価…②立子
女郎花少しはなれて男郎花(星野立子)
星野立子は、虚子の次女で、中村汀女、橋本多佳子、三橋鷹女と並んで、4Tと呼ばれ女流全盛の先駆。虚子のすすめで、「玉藻」を主宰する(女性として初)。1903(明治36)年~1984(昭和59)年。
男郎花(オトコエシ)は、丘陵帯,山地の草原や道端に生える多年草。女郎花(オミナエシ)に比べて強壮な感じがすることから付けられた名前。
1.高橋修宏(昭和30年生)…喩のはらむ陥穽
作者はおそらくこのような景色を実際に見たのであろうが、言葉で書けば、<女>と<男>が対比されることで、過剰な意味性を呼び込んでしまっているように感じる。
<少し離れて>という措辞が、否応なしに人間の男女の距離感をめぐる喩を形成してしまうのである。
実景であっても、言葉の持つ意味性やイメージを検証しきらないと、このような喩のはらむ陥穽に落ちいってしまう。
2.山下知津子(昭和25年生)…どこか、されど疑問
一つの景の中で大きく剛直に対象をつかみ取り、思い切り単純化して提示するというこの句の構成のすばらしさは評価したい。
俳句という形式の強みが存分に発揮される表現方法だ。
しかし、女郎花ならでは、男郎花ならではの実在感やその花らしさが確かに伝わってくるかというと、疑問。
3.仲寒蝉(昭和32年生)…遊びとわざとらしさ
単純な構成の句で分かり易い。だが、女に対して男を配する字面での遊びに過ぎない。
句会でならば、花たちが人間の男女みたいに感ぜられて楽しい句ですねえ、などと評しながら、たぶん採るだろう。しかし、「名句」というほどのレベルではない。
「少しはなれて」が、さもありそうな情景で、実際に作者が見た風景かもしれないが作り物めいて聞こえてしまう。
4.大石悦子(昭和13年生)…やさしく深く
言葉遣いはやさしいが深い思いをたたえ、その風格は父虚子に迫るものがある。
散文には言い換えられない俳句固有の表現に、改めて敵わないと思う。
5.仁平勝(昭和24年生)…コロンブスの卵
これを嘱目というなら、そうかもしれないが、写生の句ではない。
もともとその花の命名自体が見立てだから、なにか作者の視点が加わっているわけではない。
ちょっとしたウィットの句で、俳句にはこういう遊び心があってもいい。
そういう意味ではコロンブスの卵として評価してもいいが、俳句はオリジナリティに価値があるわけではないので、名句と呼ぶのはおこがましい。
◎:大石悦子
○:仁平勝
△:高橋修宏、山下知津子、仲寒蝉
といったところだろうか。
<女郎花←→男郎花>の対比表現が、構成的には面白いが、わざとらしい感じで人の心を打つ表現になっていない、という辺りが最大公約数で、虚子との関係もあり、遠慮がちに否定してみたということだろうか。
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