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2007年9月 5日 (水)

瀬島龍三氏の死/追悼(1)

瀬島龍三氏が、昨日95歳で亡くなった。
富山県の農家に生まれ、陸軍士官学校、陸軍大学校を卒業した。陸大は首席で、昭和天皇から恩賜の軍刀を賜った。
東亜・太平洋戦争では大本営参謀として作戦立案を担当、敗戦直前に関東軍参謀に就任した。
戦後はソ連軍の捕虜になりシベリアに連行され、約11年間の抑留生活を経て、昭和31(1956)年に帰国。
昭和33(1958)年に伊藤忠商事に入社し、航空機商戦などで手腕を発揮し、取締役に就任。副社長、副会長を経て、昭和53(1978)年に会長に就任した。
昭和56(1981)年には、中曽根行政管理庁長官(当時)の要請で第二次臨時行政調査会委員に就任し、土光会長を支え、3公社(国鉄、電電公社、専売公社)の民営化を導いた。

華麗な履歴というべきだろう。
戦中・戦後レジームを通じて、時代の重要課題に係わり、敏腕を振るった。
山崎豊子さんのベストセラー『不毛地帯』は、シベリア抑留から帰った商社マンが国際商戦で活躍する小説だが、主人公の壱岐正は瀬島氏がモデルである。
陸軍大学校を首席で卒業した「秀才中の秀才」は、大本営においても、総合商社においても戦略策定の中心に位置し、その情報分析と情勢判断は、「瀬島神話」とも言われる評価を得た。

確かに、優れた参謀だったのだろうと思う。一方で、果たしてその戦略は正しかったのだろうか、という疑問が湧くことも否定できない。
われわれの世代からすれば、東亜・太平洋戦争は、もともと勝てる見込みなどなかったように見える。
戦死者の半分以上が餓死者と言われるように、ロジスティックスへの配慮が足りないし、非戦闘員の多くの市民が犠牲になっている。
もちろん、一参謀の責任とはいえないだろうし、当時の参謀本部の判断のあり方や、ラインへの影響力がどの程度あったのかも考えなければならないだろう。
しかし、そもそも戦争の全体(開戦から終結)に関して、どのような戦略構想があったのか、あるいはなかったのか。瀬島氏を含め、当事者だった人たちが総括して、分かりやすく後世に伝えるべき責務を負っていたのではないかと思う。

シベリア抑留中は辛苦をなめたであろうことは想像できる。
シベリア抑留に関して、関東軍とソ連極東軍の停戦交渉の過程の中で、将兵の労務提供に関する密約があったのではないか、それに瀬島氏が係わっていたのではないか、という疑惑を持たれたことがある。
これについては、スターリンが、日本軍兵士の連行を指示した秘密指令文書なども発見されているので、瀬島氏らが関与した密約などは、なかったのだろうと思う。
しかし、抑留時代の実相については、瀬島氏が多くを語らなかったことも含め、よく分からないことが残されたままになってしまった。

伊藤忠時代の手腕についても多くのサクセス・ストーリーが残されている。
例えば、戦術しかなかった伊藤忠に戦略を持ち込んだ、と評価されている。確かに、繊維商社の色合いが強かった伊藤忠が、総合商社に発展していく過程で、瀬島氏の果たした役割は非常に大きなものだったのだろうと思う。
企業参謀の一つのモデルであったことは間違いない。
一方で、瀬島氏に注入された攻めの社風が、大規模不動産開発などの負の遺産を生んだ、ということも言われている。
もちろん、一つの事象には、必ず光の面があるのと同時に影の面があるだろう。
だから瀬島氏の評価が二分されることは当たり前のことでもある。

今年の点鬼簿には、宮沢喜一氏、宮本顕治氏、瀬島龍三氏という、戦中・戦後レジームの異なる側面を代表する人たちの名前が載ることになった。
それぞれ有為転変の人生だったというべきだろうし、それぞれの分野で湧源として活躍し、多くの業績をのこされた人たちだと思う。
しかし、これらの人たちの名前を見ると、「戦後レジーム」をどう評価するかは別として、時代が確実に転換して行っていることを実感する。
そして、改めて、生あるものは必ず終わりの時を迎えるものだな、と思う。
合掌。

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