偽装国家
「白い恋人」の賞味期限改竄のニュースには、多くの人が「お前もか!」と思ったのではないだろうか。
同じ北海道のミートホープ社の食肉偽装事件の記憶が未だ生々しいが、「白い恋人」も、1996年から、賞味期限の改竄を日常的に行っていたということだ。
「白い恋人」は、私も北海道に行ったときに土産として買った記憶がある。
北海道のイメージに似合ったネーミングとパッケージ、そして北海道限定販売といったマーケティング戦略が功を奏して、高い知名度を獲得していた。
「白い恋人」は、石屋製菓という会社が製造元である。
当初、オーナーの石水社長は、「私は知らなかった」と言っていたのだが、長期にわたる改竄を認識していたことを認めざるを得なくなり、結局、引責辞任という形になった。
振り返ってみれば、ここ数年、偽装事件のオンパレードだ。
大手食品会社が輸入牛を国産牛と偽装。建築士がマンションの構造計算を偽装。政治家が事務所経費や学歴を偽装。進学校が必修単位の履修を偽装。新興企業の期待の星が決算を偽装。考古学の研究者が遺跡を偽装・・・
数え上げれば切りがない。
そういう状況を勝谷誠彦さんは『偽装国家―日本を覆う利権談合共産主義 』扶桑社(0703)と呼ぶ。
勝谷さんは、テレビのコメンテーターとして活躍しているが、もともとは旅のエッセイなどを書いてきた(いる)人だ。
『いつか旅するひとへ』潮出版社(9808)という本を読んだとき、テレビでのアグレッシブな印象と違って、繊細な感覚の持ち主だと感じた記憶がある。
勝谷さんは、偽装が発生するのは、本音(実体)と建前に乖離があるからだ、とする。本音(実体)と建前が乖離していれば、そこに裁量と利権が生じ、談合が生まれる。
本音(実体)と建前の乖離は至るところにあるだろう。だから、偽装の材料は尽きることがない。
勝谷さんは、政界で「改革」という言葉が氾濫している状況を、「偽装改革」だとする。
その典型例が、郵政総選挙だ。
離党させ刺客まで送った造反議員の復党を認めるのは、検査のときだけ違反状態を正し、検査が終わったら元に戻すのと同じことではないか。
あるいは、飲酒運転の検問を通りすぎてから居酒屋の駐車場に車を乗り入れて、じっくり飲むようなものだろう。
8月29日に発表された改造安部内閣の副大臣の中に、4人の郵政造反組がいる。
復党から完全復権へ、ということだろうか。
まあ、もともと自民党は「何でもアリ」だから、想定の範囲内とも言えるが、勝谷さんの選挙を検査に喩えるアナロジーは、その通りだろう。
偽装国家の耐用年数は既に終わっている。
本音と建前が一致した国家は「実質国家」で、実質国家への転換を急ぐべきだ、という意見には同意するが、自分について考えてみても、本音と建前が乖離していることがしばしばあるのを否定できない。
程度の問題ではあるが、実質国家への転換は簡単ではないと思う。
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